あとはまかせろ!(5分後 あとはまかせた!) (明本淳) どこまでも続く草原の中を地平線へと向かって颯爽と走るオレの腰には、自分の背丈程もある刀が納められていた。目の前を走るアマネ先輩の背にも同じくらい大きな剣が背負われているが、彼の武器は恐らくオレの数倍の重さがある。 さほど体格がいい方でもないオレよりさらに小柄な先輩が何故そんなことができるのか。 そりゃもちろん、ゲームだからだ。 「あそこ潜ってるな。引きずり出すから角攻撃しろよ」 「へーい」 アマネ先輩の投げた玉からキィィン、と高音が発せられると、砂の中からオレ達の何倍もの大きさの恐竜に似た魔物が現れた。飛び出した魔物は地面にのたうち回って暴れている。 オレは指示通り正面に回って頭に刀を振り下ろす。ザクザクと切れる音は非常に爽快だ。 コンボを決めて切り続けると、二本のうち残っていた角がポキリと折れた。ちなみにもう片方はアマネ先輩がハメ技で既に壊している。 「壊れたな。あと尻尾な」 「はいはーい」 と、返事をしながらも、調子に乗ってそのまま乱舞技に入る。頭へのダメージは大きいからだ。 しかし、それも半ば、魔物が頭を振りながら体勢を建て直した。 攻撃を続けていたオレの体は魔物の頭突きを食らって軽々と宙に浮く。 そろそろヤバいかな、って思いながらもギリギリまで攻撃しようとして、混乱から覚めた魔物に吹っ飛ばされる。オレがよくやるパターンだ。 しかも今回はさっき回復を怠っていたという失態付き。 「うわ、死ぬ」 ドサリ、と落ちたオレに向かってやってくる魔物が見えるが、体はすぐには反応しない。 「何やってんだよ、死ね!」 「次、三死目なんでクエ失敗しますよ」 「死ぬなよ、クソが」 突っ込んできた魔物はオレに渾身の一撃を食らわせてくれたが、アマネ先輩の言葉のお陰か、スキルが発動して何とか持ちこたえることができた。 「あっぶねー。ラッキーっすね」 「ラッキーじゃねぇよ、クズが!」 しかし、安心したのもつかの間。オレの頭の上に、輝く星とひよこが踊っているではないか。 「うわぁピヨった!」 そうしている間にも、先ほどの攻撃によって離れていた魔物は方向転換し、オレをターゲットに再び突っ込んでくる。 「無理無理すんませんマジで無理っす死にますこれ!」 「チッ」 舌打ちしたアマネ先輩がオレの目の前に飛び出し、魔物に向かってヒカリ玉を投げつける。それから全体回復薬を飲み、すぐさま攻撃に走った。 かろうじて死なない程度に体力が回復したオレは、安心して自分の回復薬を口にする。 が、あまりに回復に集中していて周りを見ていなかったせいで、飛んできた尻尾に見事吹っ飛ばされてしまった。 魔物からは離れて安全な場所にはきたが、またもや体力はピンチだ。 そんなオレの様子に、アマネ先輩が見兼ねたらしい。 「お前隣に逃げてろ!」 「え?」 「いいからあとは任せろっつってんだよ!」 頼もしいアマネ先輩の言葉に、オレは遠慮なく敵に背を向け、一目散に走り出した。 エリアが変わって一息つくと、鳥が囀り、草食恐竜がのんびり草を食べている。 暇なオレはそいつらの側に生えている薬草を摘むことにした。 「大体てめぇはすぐ突っ込んでいきすぎなんだって」 「だって回復強化と防御強化ついてるし」 「だってじゃねぇだろ、2死してる時点で攻撃やめて守りに撤しろよ。つかお前、普段からすぐに緊急回避使いすぎなんだよ、目の前跳ぶな目障りだ」 ぶちぶち言いながら、アマネ先輩は手を動かし続ける。 「もうお前、遠距離にしたら? 納刀のタイミングおせぇし、乱舞の使いどころおかしいし、ボウガンでも速射つけてガンガン撃ったらちったぁ気分いいんじゃね?」 「えー? だってオレ使ったことないし、また装備作んなきゃいけないじゃないっすかぁ」 「じゃあ肉取って焼いてろよ。俺の分もな」 「アマネ先輩、ゲームでまで食い意地張ってんすね」 「わかった。お前とのパーティーは今日限りだ」 「すんませんオレが馬鹿でした」 かたや山菜取り、かたや家程もある魔物と一戦を交えながらの会話。 「よし、尻尾切れた」 「マジっすか」 「もう終わるぞ、早く戻ってこい」 オレは草むしりをやめてアマネ先輩と魔物がいるエリアへと走った。 エリアに入ったとほぼ同時、クエスト達成の文字が晴れやかな音楽と共に出てくる中、オレは落ちていた尻尾から素材となる部位を剥ぎ取った。 全てが終わってふと見ると、眠っている魔物の傍に立っているアマネ先輩はかすり傷ひとつしていない。 素晴らしい。彼はきっとこの世界の英雄だ。依頼を受ければ雪山だろうが火山だろうが飛んでいき、どんな凶悪な魔物も余裕綽々で退治してくれる。 「次どこ行く?」 「オレ、欲しいの出なかったんでもっかい今の行きません?」 「いいけど、潜ったら走れよ。それから尻尾きたら左に転がれ」 「努力します」 ギルドに戻って新しいクエストを見ながらそんな話をしていると、閉じていたはずの扉が軋んだ音を立てて開いた。 「お前達、いないと思ったらこんな場所にいたのか」 げんじつ の せかい から うきょうぶちょう が あらわれた ! 賑やかなギルドは静かな体育倉庫に早変わり、明るい受付のお姉さんは般若の顔をした部長に変身だ。 オレじゃ全く歯が立たない。レベル1でひのきのぼうだけ渡されて、魔王出てきたんでちょっと倒してきてよ、とか軽く言われた勇者の心境だ。 「アマネせんぱ……」 助けを求めて英雄に視線を送る。 すると英雄は自分のゲームをスリープに入れて立ち上がり、力一杯言った。 「あとは任せた!」 Game Over! ツイッターお題botより。 一度は書きたかったモン●ンネタ。モデルはちらほら違うとこもあるけど、闘牛よろしく颯爽とよけたら岩に角がささり、ぴよったときに近距離武器で突っ込むと怪我するあの子。 ちなみにわたしは2Gが全盛期でした。弓から笛まで色々使うんですが、メインは嫌われ太刀厨とライトボウガンです。 →/menu →/menu [← | 少女 | →] |