孤独水割り
(多所普)

お前は女に依存しすぎると綾に言われたのは最初の彼女に振られた時だった。

恋愛が生活にモロに影響を与えているなんて女々しいことこの上ないわけだが、心理的な問題だから鍛えられるようなものでもなくて。結局そんな自分を変えられないまま、二人目の彼女に振られた。

付き合ってみるまで知らなかった。俺がこんなに弱いなんてこと。

いつも舐めてる飴玉をバリバリと噛み砕く。細かくなった破片から、パインの味が口の中全体に広がっていく。破片はあっさりと溶けていき、そこには何も残らなかった。

口の中に入れてから消えるまで、約1分。
気持ちも一緒に消えてくれたら楽なのに。なんて馬鹿な考えを繰り返して、何回目だっけ? 数えてないからわかんないけど、とりあえず、先ほど開けた袋がもう半分になっているくらい、何度も。

新しい飴を口の中に放り込んで、また奥歯で半分に割ったところで、綾が隣から「噛むなよ」と言った。


「飴って噛むもんじゃねぇだろ」

「そう? なかなか爽快だぜ」

「そんなのでストレス発散してんの?」

「そうかも」

「しょぼい発散方法」


そうだな、と同意。綾はさっきからずっと呆れ顔で俺を眺めている。珍しく、携帯を閉じたまま。そんなに俺の落ち込んでる姿が珍しいのだろうか。


「お前、見すぎ」

「アマちゃんがかわいいから」

「はいはい」


軽くあしらい、背中を向ける。後ろで綾の笑い声が聞こえる。


「何よ、そんなに傷ついてんの?」

「悪い?」

「別にー」


言いながらゆっくり近づき、俺の肩に手を回す。これがヤツのいつもの態度だ。頭にくることもあるけれど、助けられることもある。今みたいに。


「俺、付き合わない方がいいのかも」


そんな悲しい言葉も、こいつにだけは伝えられる。それはきっと、そうやって暗い話を受け流してくれるからなんだと思う。吐き出して、流してもらっている感じ。

きっと綾は興味なんてないんだろうけど、「なんで?」と、尋ねてくる。多分、俺が話したいって、分かってるから。


「死にたくなるから」

「なんで?」

「……空っぽになるから、かも」

「どんだけ彼女ばっかなんだよ」


組んでた手を離し、背中をポンポンと叩く。


「アマは依存しすぎてんだよ」


前も聞いた。
そう、返す間もなく、綾の言葉が続いた。


「俺も、そんな風になりたい」


え? と、綾の方を振り向いたけれど、彼はいつもの冗談みたいな笑顔を浮かべているだけだった。


END


(拝借:はれのちらいう

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