RESEARCH!!!
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もうすぐバレンタインデー。普段積極的になれない女の子も、この日は少し、勇気が持てる日。

ということで私も、勇気を出して頑張ります。

「ねぇ、秋良って何が好きかな?」

「俺はチョコが好き」

「あんたには聞いてない。誰か知らない?」

普の答えを一蹴して私がみんなに問いかけると、目の前にいた淳がえーと、と考え始める。バレンタインと聞いただけで嫌な顔をする淳だけど、先輩の私には従順だ。

「スポドリじゃないっすか? ニノ先輩、いつも飲んでるし」

ただ、頭はよくない。必死に考えて出した答えがこれなんだから。

「バレンタインにスポドリあげる乙女がどこにいるのよ」

「まず乙女がいねぇからな」

「煩い普!」

私はバリバリとスナックをかじっている普の頭をはたく。ってーな何すんだよ暴力女! なんていう暴言は聞こえない。私は暴力女などではないのでこれは普の独り言だ。

「っつーかいろはちゃん、二ノ宮にもそんなガツガツいっとんの?」

普の横で頬杖をついてスマホと相思相愛してる綾が、興味なさそうに言う。

「そそそそんなわけないでしょおぉぉぉ!」

「いろは先輩、動揺しすぎっす」

「似た者同士、ですよね」

思わず取り乱してしまった私だけど、後輩二人に呆れられ、冷静さを取り戻す。

「私だってさりげなくアピールくらいできるわよ。お疲れさまーって声をかけたり、ノート見せてーとか言ってみたり、たまにメールとかしちゃったり」

って何で私、みんなにこんな恥ずかしい自慢してるんだろ。

「いや、逆だぜ。少しくらいガツガツした方がえぇよ、って言いたかったんよ」

綾の言葉に、他の三人もうんうん、と同意する。

「そんなんじゃ絶対伝わってねぇわ。あいつの恋愛に対する鈍感さは異常だからな」

「ですよねー。ニノ先輩、アレでモテないとか言うし」

「しかも謙遜じゃなく、本気で思っておられますからね」

そう、みんなが言う通り、秋良はモテる。中学校区は離れているが、サッカー推薦で一年の時からエースとして試合に出ているため、既にかなりの人気がある。

が、サッカーという団体競技のためか、女の子が自分の応援をしているなんて微塵も思っていないという鈍感っぷりだ。

今の状態ならば彼女ができることもなさそうなのはいいんだけど、私が彼女になることもなさそう、ということが大問題。

「もう、何でもいいから情報ちょうだいよ!」

あまりに必死だったせいか、綾はスマホを消してポケットにしまった。そして、私に顔を向ける。

「二ノちゃんは唐揚げがすき」

「どこ情報よ」

「あいつ半分は唐揚げ弁当だから」

でかした! って言いたいとこだけど、バレンタインデーに唐揚げを以下略。

「けどあいつ、安いから買ってるっていってたぜ」

「いやいや、特別好きでなくていいんよ。さりげなくそういうの見とる、っつーアピールだけん」

「あ、なるほどね」

二人はよく秋良とお弁当を食べているから、その情報自体は信憑性がある。だけど、から揚げっていわれても……と悩んでいると、ひびきが口を開いた。

「お弁当作ってあげるのはいかがです? 二ノ宮先輩、従兄弟と二人暮しですし、僕なら嬉しいですよ」

「さすがひびきっ! 頭の作りが違うわっ!」

こんどこそ、でかした! である。でかしたっていうのはさっきではなくこういう時に使うべきだ。

あまりの嬉しさにひびきを撫でる。サラサラの髪の毛が気持ちいい、というのも理由なんだけど。

「あー、オレもオレも!」

「淳は情報ないでしょ」

「だからお茶の代わりにスポドリあげたらいいっしょ!」

「飲み物もいるだろうからじゃあ採用してあげるわよ」

やったー、と喜ぶ淳を撫でてやると、ニコニコと嬉しそうに私を見ていた。ホントこの子は犬みたいだ。

「けど弁当ふたつもいるか? 俺、菓子パンなら食うけど」

せっかくいい感じにまとまってきたというのに、普は水を差す。

「あんたにはあげないから安心しなさい」

「かわいくねぇ女。秋良ってマゾなのかな、確かお前みたいな女、好きだよな」

え、今何て言った? 普にしては嬉しいこと言わなかった?

「ちょっとそれもっかいいって」

「かわいくねぇ女」

「違う、そのあと!」

「秋良ってマゾなのかな」

「違う、最後のとこだってば!」

「だよな」

「馬鹿!」

所詮普の戯れ言だし、真に受けるのが間違ってるんだけど、ちょっといい気分だったのに。

なんて、私達が煩くしていると、ひびきが冷静な口調で言った。

「いろは先輩、多所先輩と遊ばずに早く決めた方がよいのでは?」

「そうっすよ、ニノ先輩きちゃいますよー」

そうやって急かされると、何だか焦ってしまう。事実、秋良は今サッカー部の方にいるんだけど、いつこちらにやってくるかわからない。

「えぇと、どうしよう。結局お弁当は迷惑なの、どうなの?」

「どうでしょう。あくまでも僕なら嬉しい、という話ですから」

「オレも嬉しいっすよ、いろは先輩にもらえるなら」

「俺だって好きな子に貰えたら嬉しいぜ。お前からでも貰ったら食べてやるし、もったいねぇから」

普の意見の後半部分はスルーするとして、総合すると嬉しいということでいいの?

「そんな悩まんでも作ってこいな。バレンタインは弁当買わんように俺がラーメン食べに行こうとでも言っといてやるわ」

その、綾の言葉が後押しとなって、「わかった、頑張るね!」と、私が立ち上がったところで五時のチャイムが鳴り響いた。


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さて、当日。早起きしてついでに自分の分までお弁当を作った。

昼休憩に入って早速、綾に言われた通り、二人のいるクラスへ向かう。秋良はまだ席に座っていた。

「秋良、これあげる! チョコレートじゃなくてお弁当なんだけど」

「え? 俺に? ありがとう」

勇気を出して渡したお弁当を、秋良は笑顔で受け取ってくれた。

「けど、今から吉崎とラーメン食いに行くとこでさ……」

「阿呆。食べてやれよ」

「放課後食べようかなって」

「今食え、今。早い方がうまいぞ」

いつも適当でからかわれてばかりだが、今日の綾は一味違う。そうそう、頑張って! と、心の中で応援するだけの残念な私とは違うのだ。

「でも、じゃあお前どうすんだよ?」

「アマちゃんからパンかっさらうわ」

「なかなか危ない橋渡るな」

「ホントにね」

思わず私も同意してしまったが、普から食べ物をとるなんて、ライオンの目の前から肉をとるようなもの。綾以外なら確実に殴られるところだ。

「けどいろは、何で突然弁当なんて作ってきたんだ?」

と、不思議そうな秋良。「料理の練習?」などと聞かれたが、私は好きな人を練習台に使うほど酷い女ではない。

「それ、バレンタインのつもりなんだけど、秋良って甘いもの苦手かなって……」

「あぁ、そうか。そうなんだよ、チョコレートばかり貰ってちょっと困ってたんだ。いろはって気が利くなぁ」

やった、褒められた! ひびき本当にありがとう今日も撫でてあげよう! あまり嬉しそうではないけれど、私が撫でたいから。

秋良は嘘を言うような性格ではないので、本心のはず。しかし、よくこの本心に翻弄される。今も、そう。

「吉崎は何貰ったんだ?」

「何で俺が貰うんよ」

「え? みんなに渡してるんじゃないのか?」

秋良はこれが本命だということに……というか、私の気持ちに全く気付いていないようだった。軽く落ち込む私の代わりに、綾が言う。

「ニノちゃん、バレンタインの女はサンタじゃないんよ。誰彼構わずチョコ配ったりせんの。俺はどうせ桃花が持ってくるわ、あっっっまいやつ」

綾はため息をついて珍しく憂鬱そうな表情を浮かべる。と、何故か秋良まで憂鬱そうな顔をした。

「あぁ、そっか。そうだよな……」

「何落ち込んどるんよ」

「いや……今日、何人か貰ったんだけどさ、サンタじゃないって……そうだよな。喜んでもらっちまったけど、よかったのかな」

「あー、他の女のことはしらんけど、直接コクられたわけじゃないんならいいんでない?」

「受け取ってもらえなかった方がキツいよ」

綾が適当に返したこともあって、私は思わず言ってしまった。

「……そうか?」

「うん。一生懸命考えて渡したのに受け取って貰えないなんて、辛いよ」

それは自分の気持ちでもあった。今、秋良が素直に喜んでくれたのが本当に嬉しかったから。

すると秋良も、よかった、といって表情を緩めてくれた。

「ありがと。いろはに言われると安心するよ。俺、女の子の気持ちってよくわかんねぇから」

そんな秋良の笑顔を貰い、私は大変満足した。

その後、一緒に食べるか? って言われたけれど、反応を見るのが怖かったし、恥ずかしくもあったし、友達と食べるね、と断って、私は身を引いた。

翌日も、おいしかったよ、とわざわざお弁当箱を洗って持ってきてくれたので、それで満足。明日はこれに自分のお弁当を作って行こう。

「……で。両想いになれたわけ?」

チョコレートを頬張りながら尋ねる普に、「聞かないで」と返す。そう、私は満足したんだけど、結局何も変わってはいない。これにはせっかく協力してくれた綾も困り顔だ。

「二ノちゃん、頭悪いんじゃない? 義理で渡さんぞ、って教えたったのに気付いてないし」

「マジかよ。あいつホモか何かじゃね?」

「いや、他の女のチョコを好きじゃないのに貰って悪かったとか言い出すし、一応考えはあるみてぇだけど」

「えー、それってさ、単に秋良が根性ねぇだけじゃね?」

「さぁー、どうかねぇ」

「お前、気付いてて面白がってるだろ」

「何が?」

私も意味がわからず「何が?」と返すと、普は「別に」と言って新しいチョコの包装紙を破り始めた。バレンタインは終わってしまったんだな、と、何だか切なくなってくる。

「あぁぁぁ、また来年かぁぁぁ」

「そんなに叫ぶなって。ほら、チョコやるから元気出せよ」

普が差し出してくれたチョコレートに向かって、私はサッと手をかざす。

「ごめん、普とは付き合えない」

「ざけんな。頼まれても付き合わねぇよ、クソが」

「はぁぁ? 傷ついてる乙女にそれですか? あんたは鬼ですか? 豆まきで退散しなかった鬼ですか?」

「だから、まず乙女がいねぇんだけど」

「女の子はみんな乙女なのよっ! 恋をしたら女の子は乙女になるのよぉぉ!」

「何なんだよ、同情してやってんのにめんどくせぇ女だなお前は」

黙れ黙れ! と叫びながら、私は泣いた。涙は出なかったけど、心は泣いているのだ。

この片想いが実る日は、くるのだろうか。

「なぁひびき、何でいろは先輩はコクんねぇんだろうな」

「両想いって気付いてないんでしょ」

「やっぱり似た者同士ってか」

そんな後輩達の話は私の耳に届かず、この冬もまた私は一人で過ごすこととなった。

おしまい。


アンケートでキーワード下さった方、ありがとうございます。題名をお菓子にしなかったのは、リサーチする、って書いてあったのが気に入ったから。



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