チョコフォンデュ
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バレンタインの前日。

チョコを一緒に作ろう、と誘うと、姫咲ちゃんは快く「いいですよ」と引き受けてくれた。


「私、初めてだから教えてね」

「教えるような難しいものは、私も作れませんよ」


謙遜してるけれど、姫咲ちゃんが作ってきてくれるものを私は絶対作れない自信がある。


「何を作りますか?」

「簡単なのがいいよね」

「じゃあ生チョコとか、トリュフとか……」

「いいね、生チョコにしよう」


と、張り切って言った私だったが。

結局半分以上姫咲ちゃんが作ってくれた。こんなに簡単なものなのに。

だけど姫咲ちゃんはそんな素振りも見せず「うまくできてよかったですね」と嬉しそうに微笑んだ。

時計を見ると、時間はまだ三時、ちょうどおやつの時間だ。


「姫咲ちゃん、これ、私からのバレンタインチョコ」


私は用意していた箱を差し出す。


「え、私に、ですか……?」


姫咲ちゃんは箱を受け取ってはくれたけれど、思わぬプレゼントに戸惑っていた。


「でも、あの、いろは先輩……私達、女の子同士ですよ」

「最近友チョコとかあるでしょ。姫咲ちゃんも交換とかしない?」

「あ、します。けど、先輩にもらうなんて……」


いいながら、姫咲ちゃんは机に箱を置き、それを眺めた。

それというのは、チョコレートフォンデュのセットだ。

実は私がやってみたかっただけなんだけど、家で一人でやる気にもなれず、ひっそりと願望だけを抱いていたのだ。


「こんなすごいものもらっても、私、お返しもできないし……」

「そんなに高いものじゃないよ。それに、またみんなでパーティーとかすればいいじゃない。誘ったら真乃や真琴が飛んでくるわよ



「確かに、こういうの好きそうですもんね」

「でしょ? 私もしたかったしさ、今一緒に食べよ!」


私は用意していたフルーツやお菓子を並べていく。


「いろは先輩、そんなに持ってきたんですか?」

「色々食べてみたいでしょ?」

「そうですけど……それで荷物が多かったんですね」


クスクスと笑う姫咲ちゃん。

妹がいない私は、こんな妹が欲しくて仕方ない。姫咲ちゃんも一人っ子だし、いっそお姉ちゃんとでも呼んでくれないだろうか。

と、私が妄想を膨らませている間に、セットしていたチョコが溶けだし、流れはじめた。

甘い香りがただよってくると、姫咲ちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべた。


「楽しみですね。私、初めて食べます」

「私もなんだ。喜んでくれてよかった」


マシュマロ、バナナ、キウイ、クッキー、パイン。

その中から苺を串に刺し、チョコをつける。


「はい、じゃあ私が食べさせてあげるね」

「いいですよ! 自分で食べられますって」

「そんなこといわないの。はい、あーん」

「あ……あーん……」


姫咲ちゃんは顔を真っ赤にして控え目に口を開いた。

すごくかわいい。私が男だったら……姫咲ちゃん、こんなことしてくれないかもな。そう思うと、女でよかったと思う。


「おいしい?」

「おいしいです、けど……何だか、恥ずかしいです」


恥ずかしがる姫咲ちゃんを堪能しながら、私はまたフルーツを串に刺す。


「はい、もういっこ」


あーん、と、また躊躇いがちに口を開く姫咲ちゃん。

今度はパシャリ、と写真を一枚。


「あ、いろはせんぱいっ! やめてくださいっ!」

「大丈夫大丈夫、野郎どもには見せないから」

「女の子にでもやめてくださいっ! 恥ずかしいですっ!」


もうっ、と怒りながらも、また目の前に差し出すと、やっぱり口を開いてくれる。

ふふ、かわいい。

そんなこんなで、私は姫咲ちゃんと二人の時間を満喫した。


帰り際、姫咲ちゃんが箱を差し出した。


「あの、いろは先輩。これ、お返しです」


中身はわからないけど、私はいいよいいよ、と手を振ってみせる。


「私、イベントとか好きでさ、お礼も兼ねて姫咲ちゃんにあげたかっただけだからさ!」

「だめです! 友チョコも交換しますもん。だから、いろは先輩も貰って下さい」

「わかった、ありがとね」


受け取った箱は、なかなか大きくて重さもある。我慢できずに中を覗くと、まんまるのチョコレートケーキが入っていた。


「えー、すごい。ホントにまるごともらっていいの? ありがとう!」


私のはしゃぎっぷりに、たいしたものじゃないです、と姫咲ちゃんは苦笑したけれど、本当にすごく嬉しかった。

私があげたのはおもちゃみたいな安物なのに、こんなにおっきなケーキが貰えるなんて。

今日はかわいい姫咲ちゃんも見られたし、よかったな。



そして、次の日。


「真乃、見て!」


昨日のケーキの写真を真乃に見せると「オレでもそれくらい作れるよー」とつまらない反応をした。

けれど私はそんな真乃に向かって、ふふん、と鼻をならす。


「馬鹿ね、これは姫咲ちゃんの手作りなのよ!」

「あぁ、キサかぁ。上手だねぇ」

「何なのよ、その態度の違い。これ、私が貰ったのよ、バレンタインに」


わかってないようだったので、わざとそれを強調して言うと、真乃はコロッと態度を変えた。


「えぇぇぇ? うっそー、オレ、部活のみんなでー、ってやつしかもらってないんだけど!」

「いいでしょいいでしょー」

「ずっるーい! どうしていろはちゃんだけそんなおっきなケーキなのー?」

「姫咲ちゃんに愛されてるからに決まってるでしょ」


私はまた、ふふん、と自慢げに言ってやる。


「いいなぁ……ていうかいろはちゃん、貰う側なんだね」

「え、違うよ」


用意してある、と言い掛けてカバンに入れ忘れたことを思い出す。


「あ。真乃達のチョコ、家に忘れてきた」


ごめんね、と謝ってはみたけれど、真乃はさほど気にしていない。


「あ、そー。んじゃ食べに行くからキサのケーキちょうだぁい」

「だーめ」


真乃は「ケーチ」と、頬を膨らませる。


「そんなこと言ったらあげないわよ。姫咲ちゃんと一緒に作ったのになぁ」

「あはは、いろはちゃんはそんな酷い子じゃないもん。ね?」


ニコッと笑って「明日、楽しみにしとくね」なんて言われたら、あげないわけにはいかない。

うーん、やっぱり真乃は侮れない。

ちなみに姫咲ちゃんの『あーん』の写真は、大切に保護してしまってある。

約束しなくてもこんな野獣達には見せてなんてやらない。


おしまい。



姫咲って女の子でいいのかな?
百合っぽくなってしまったけど百合なのかな。百合とか書いたことないけど。

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