俺でごめんね
(柊遊馬)


泣いてるいろはを見るのには慣れていた。いつの間にか強がって人前では泣かなくなっていたけれど、やっぱり俺の幼馴染は泣き虫だ。


慌てて涙を拭って振り返ったいろはは、俺だとわかった途端にため息をついた。

「なんだ、遊馬か」

「俺でごめんね」

別に、ってまた肩を落とすいろはの隣に座る。

「慎ちゃんがよかった?」

「いい。悲しみに浸りたいのに笑っちゃいそうだもん」

「あはは、それもいいと思うけど」

「だめ。私はしんみりしてるところなの」

拳を作っているいろはの手をそっと握ると、いろはは躊躇うようにゆっくりと、その手を開いた。

指を絡ませながら、視線を窓の外へと向ける。眩しい夕焼けの中をほんのり赤く染まった雲が流れている。

「遊馬のこういうとこ、嫌い」

「こういうとこって?」

顔をあげたいろはと目が合った俺が微笑んで頭を撫でてやると、いろはは再び顔を伏せ、「遊んでるくせに」と、呟いた。

「それって今関係あるの?」

「他の女の子と同じように優しくしないで」

「いろはだからだよ。他の子にはこんなことしないって」

「遊馬の口から出る言葉はみんな嘘に聞こえる」

「俺は嘘は言わないよ。だから誰にも愛してるなんて言わないんだもん」

「その発想もよくわかんない」

俺の指を弄びながら、いろはは全く元気のない声で会話をする。

「それで、どうして泣いてるの?」

「……何でもないよ」

「言うと思った。でもわかってるから、いいや」

「じゃあどうして聞いたの」

「いろはがどれだけ素直になってくれるか試してみたんだよ」

涙の原因は破れた一枚の写真だ。いろはが花束を持って満面の笑みで写っていたその写真は慎ちゃんがコンクールに出したもので、この前最優秀賞をとったばかりだった。

そう聞くと慎ちゃんが恨まれているように聞こえるかもしれないが、恐らく慎ちゃんのことが好きな子の仕業だ。写真なんて破ったってネガやデータは残っていることくらいわかるわけだし、何よりいろはは以前からたまにこういう遠まわしな嫌がらせを受けていた。

誰かまではわからない。慎ちゃんのことが好きな子なんてたくさんいるし、監視カメラがあるわけでもないから。

「素直かどうかなんて昔からわかってるでしょ」

「そうかな? 昔はもっと素直でかわいかったけど」

「遊馬は昔からそうやってすぐかわいいっていうよね」

「だってかわいいから仕方ないじゃん」

写真以上に、心は傷ついているだろう。それでも弱音を吐かないところも、慎ちゃんには隠して写真を捨てちゃうところも、けなげでかわいいと思うよ。

だけどそろそろ、俺以外の前でも泣いて欲しいな。俺はいろはが泣いてる限りは、いろはから離れられそうにないから。


END

ついったーお題botより
つまり遊馬はこの子と恋愛しない

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