唯「ゾンビの平沢」

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★12

唯「ムギちゃんは……?」

ボ「ん?」

唯「ムギちゃんの事はどうするのさ……」

ボ「あー、彼女の事は心配いらない」

唯「……どういう事?」

ボ「君と付き合っている間は、彼女も大事にしてあげるよ。
僕はいつも複数の女の子と付き合いがあったからね。
そういう扱いには慣れているんだ」

女の子を口説いている時に言う台詞には聞こえないよ。

唯「……なるほど。」

ボ「だけど、君が僕と付き合わないって言うなら、どうなるか分かるよね?」

やっぱり……。
こいつはムギちゃんを人質にする気なんだ。

唯「貴方と付き合えば、ムギちゃんを傷付けたりしない?」

ボ「ああ、それは約束するよ」
私さえ妥協すれば、ムギちゃんは救われるのかな……。

どうせこの男は、私の体が目的なのだろう。

セックスをするだけで、命まで取られるわけではない。
ただ、彼の性的欲求を満たしてやればいいだけの話だ。

それも悪くないかも。

この男は警戒心が強く、非常に狡猾だ。
私達の関係をムギちゃんに隠し通す事も出来るだろう。

今の私には、ムギちゃんを傷付けず、この男を消す策など無かった。
ならば、最善では無いにしろ、実現可能な彼の提案を受ける事が無難ではないか。

ただ一点だけ、気懸かりがある。
私がムギちゃんを騙すという事……。

唯「……。」

ボ「僕の事、信用出来ない?」

唯「……。」

お前の老獪さは認めるよ。
今までにも、多くの女性をそうやって手玉に取ってきたんだろうね。

ボ「そっか……。でも、君に選択の余地は無いと思うけど?」
ボ「君は琴吹紬の事が一番大切なのだろう?
でも、既に彼女は僕の虜だからね。
本当は僕も彼女に酷い事はしたくないんだ」

ムギちゃんに酷い事……?
私の心がざわめきだした。

唯「……貴方はムギちゃんの事、本当はどう思っているの?」

ボ「正直気持ち悪いね」

気 持 ち 悪 い ?

あの優しいムギちゃんの事を気持ち悪いだと?
私の中の怪物が瞼を開いた。

ボ「ちょっと優しくしてあげただけで勘違いしてさ。
男を知らないお嬢様は本当に面倒臭いね。
鏡を見ても、自分が僕に釣り合わないと自覚出来ないのかな。
あの姿で化粧なんかしても、滑稽なだけなのに」

以前の私ならば激昂し、体の内側から灼熱の炎で焼かれたかの様に熱くなっていただろう。
ところが、今の私にはそれとは逆の現象が起きていたのだ。
私は、体中の熱を奪われ、まるで凍結していくかの様な感覚に襲われていた。

ボ「……どうして笑っているんだい?」

理由は分からない。
口元が緩み、自然に笑みが零れていた。

唯「ボーカルさんて頭が良い人だと思っていたけれど……」

唯「あんまり頭、良くなかったんですね」

私は笑顔で彼に言い放った。

ボ「……どういう事?」

唯「私が琴吹の事を大切に思っているワケがないでしょ……」

唯「あいつはね、私達を置いて一人で逃げたんだよ。
病気の振りをして被害者ぶってるけどさ。
こんな豪勢な所でのうのうと生きて……。
私達がどんなに辛い目にあってきたかも知らないで……」

唯「でもね、もう許してあげてるんだ。
だって、あいつのお陰で美味しいおもいをさせて貰っているからね。
私ね、あいつのあの姿を見て、いつも必死に笑いを堪えているんだよ」

私は厭らしい笑みを浮かべながら、冷酷な言葉を並べた。

唯「うん、いいよ。貴方と付き合ってあげる。
性格は最低だけど、顔は悪くないし、お金持ちだし」

唯「ねえ、昨日私に飲ませた薬、麻薬だよね?
アレ、まだ残ってるんでしょ? 私にも頂戴。」

私は彼に右手を突き出した。

ボ「アレが欲しいんだ。じゃあ、今から僕の部屋においでよ」

唯「嫌だよ。どうせまた、私にエッチな事する気なんでしょ?」

ボ「気持ち良かっただろう?」

唯「気持ち良かったよ。でもね、私、男の人に上から目線されるのって大嫌いなの。
ああいう事は二度としないでね。したら絶交だからね」

ボ「ふふふ、分かったよ」

厭らしい笑みが零れてるよ。
どうせまた、私を無理矢理襲って調教する気なんでしょ?

やってみなよ。やれるものなら。

今のうちに、脳内で私を好きなだけ陵辱し、調教でも何でもするがいいさ。
妄想の中でなら、私を従順で都合の良いペットにする事も簡単だろうね。

でも、現実ではそう簡単にいくかな?

せいぜい頑張ってごらんよ。
もしかしたら、私を屈服させる事だって出来るかもしれないよ?
それに失敗したらお前は死ぬけどね。

もうゲームは始まっているんだ。

私ね、漸く気付いたんだよ。
私が我慢をすれば全部丸く収まる。
そんなおいしい話なんて、絶対に無いって事がね。

だってさ、考えてもみてごらんよ。
ムギちゃんはボーカルの事が好き。
そのムギちゃんは、莫大なお金と権力を持っている。
だったらボーカルは、絶対にムギちゃんを利用するに決まってるよね?
人の良いムギちゃんは騙し易いもんね。

そして、私を陵辱し、肉体的にも精神的にも痛めつけ、服従させたら、今度は私をダシにして、ムギちゃんから搾り取るんだ。

だって、 私 な ら 絶 対 そ う す る も ん 。

今の会話で分かったよ。
ボーカルは私と同じ、最低の屑なんだって。
だから分かるんだ。お前が何を考えているのかがね。

それに、女達の時だって、私は全部受け入れたのに、全然良い結果になんなかったじゃん。

ボーカルは、いつか必ずムギちゃんを苦しめる存在になる。
私が何もせず堪え忍ぶ事によって、彼は増長する。手遅れになる。
だから、私がそうなる前にこいつを「処分」しなければ。

ふふふ、やったよ和ちゃん。
漸く私にも分かってきたよ。
人を守るって事がどういう事かがね。
大丈夫だよムギちゃん。

私 が 必 ず 守 っ て あ げ る か ら ね 。


結局、彼は私に薬をくれなかった。
でもね、そんな事は想定の範囲内だよ。

私は女達に会いに一般人居住区へと向かった。
彼女達は仕事をしている時間だ。
私は久しぶりに、以前仕事をしていた公衆トイレへ足を運んだ。
そこには、一人で清掃をしている女の姿があった。

唯「やっほー、平沢唯だよー」

女は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに俯き、視線を逸らした。

唯「今日は女ちゃんが、ちゃんと仕事をしているか確認しに来ました!」

女「……」

唯「うそだよ、う・そ! お話があるから来たんだよ〜」

女は俯いたまま反応しない。

唯「……なんで無視するのさ。」

私は女の肩を掴み、壁に押し付けた

唯「お話があるから来・た・の!」

唯「 聞 い て く れ る よ ね ? 」

女は黙って頷いた。

唯「それじゃあ、他の子達も呼びにいくよ。仕事場所はいつものとこ? 知ってるでしょ?」

女「で、でもまだ仕事が……」

唯「……。」

唯「だから何なの? いつも仕事なんてしてなかったでしょ……。
そんな事を気にするなんて、女ちゃんのキャラじゃないよ?」

私は女に他の女達の場所へ案内させた。
全員揃った所で、私達は彼女達の部屋に向かった。
部屋に戻ると、女達は部屋の隅で俯き、皆押し黙っていた。

唯「今日はね、美味しいお菓子をいっぱい持って来たよ?
遠慮しないで、みんなで食べてね?」

私は大きめのバスケットに詰め込んできたお菓子を、台の上にぶち撒けた。

唯「すごいでしょ? みんなに食べて欲しくて、一生懸命持って来たんだ〜」

女達は下を向いたまま、ただ只管沈黙していた。

唯「こっちにおいでよ? そんな端っこにいたんじゃ、お菓子も食べられないし、お話も出来ないよ〜」

女達は動かない

唯「ねえねえ、みんなどうして無視するのさ……」

唯「 さ っ さ と こ っ ち に 来 い よ 」

女達は恐る恐るテーブルの周りに集まってきた。

唯「よいよい。私ね、今日はみんなにチャンスを持って来たんだよ」

女「……チャンス?」

唯「そう。今のこの生活から抜け出せるかもしれないチャンスをね」

唯「○○○○○ってバンド、知ってるでしょ?
実はその人達、この施設のVIP区域にいるんだよ。
だから、私がみんなを友人として彼等に紹介してあげようと思ってさ。
もし彼等に気に入られれば、またあっちで生活出来るようになるかもよ?」

唯「もちろん、タダじゃないよ? 条件があるんだけどね。
私のお願いを聞いてくれるのなら、みんなを彼等に紹介してあげる」
  
女「……お願いって?」

唯「あのバンドのボーカルね、薬を持ってるの。いけない『薬』をね。
たぶん、他のメンバーも持っていると思う。
私はね、彼等の持っている薬が欲しいの」

唯「お願いして貰ってもいいし、盗んできても構わないよ。
どんな方法でもいいから、とにかく薬を手に入れてきて!」

唯「私はね、私に迷惑が掛からなければ、みんながその後に何をしようが、どうでもいいの。
一応、私の友達って事にするから、あまり羽目を外されると困るけどね」

唯「どうかな? 悪い話じゃないと思うけれど」

女達の返事は無い。

唯「どうしたの? みんな今の生活は嫌でしょ? 豪華な暮らしが出来るかもしれないんだよ?」

女「今のままでいいです……」

女2「ごめんなさい……」

女3「私も遠慮します……」

女4「私達、反省してます……」

唯「……。」

唯「なんで?」

唯「おかしいな……。こんな筈じゃないのに……。
ここはみんなで、頑張ろ〜って流れになる所だよね……?

何でだろう……。何でこうなるの? 絶対おかしいよ……」

女「私達、これから真面目に働きます……。だから許してください……」

唯「……。」

唯「……駄目だよ。」

唯「絶対駄目。だって、そうじゃないと、私の計画が狂っちゃうもん。
私が怪しまれずに薬を手に入れるには、これが一番良い方法なんだもん」

唯「……。」

唯「もういいや。」

唯「お願いするのはもうやめるよ」

唯「みんなの気持ちは分かったよ。私はもうみんなにお願いしないよ」

唯「お願いじゃなくて、これは命令だ」

唯「 や れ 」

お前達に拒否権は無いんだ。
私に逆らう事なんて絶対に許さない。
私の意に沿わぬ事などさせるものか。

女達は怯えた表情で私を見ていた。

唯「彼等と会っている時に、そんな表情はしないでね。
みんなは、私の大切な『友達』なんだからさ」

唯「分かっていると思うけど、今日の話は彼等には秘密だよ?
私がみんなを傷付けたって事も内緒。私達はとっても仲良しなの。
あと、薬の入手は出来るだけ早くしてね」

唯「当然だけど、裏切りは絶対許さないから。
故意に私の足を引っ張ったり、寝返る様な行動をするなら覚悟してね」

『3度目は無いんだよ』

私は彼女達に念を押した。
黙って頷く彼女達を後に、私は部屋を出た。

次はボーカルに、メンバーと私達を合わせる様に交渉だ。
私の友達が会いたがっているから、メンバー達を紹介して欲しいと。
彼は私の提案をあっさりと受け入れた。

明日の夜、私達はパーティールームを借りて親睦会を開く事になった。
ムギちゃんに気付かれぬ様、それは夜の点滴の時間に行われる。
彼女から恩恵を受け続ける為、事を内緒にしたいと私は彼を説得した。

これで私達の事がムギちゃんにバレる事は無いだろう。

翌日の20時、私はムギちゃんを医務室に預けた後、女達を迎えに行った。
彼女達は、私が事前に用意した服を着て待っていた。

元々、女達は端整な目鼻立ちをしていた。
きちんと身形を整えると、見違える程に美しくなった

流石、お金持ちの愛人をしていただけの事はある。
彼女達の容姿ならば、男達を誘惑する事も容易いだろう。

女達は皆、硬い表情をしていた。
昨日の今日で態度を急変出来る程、彼女達は器用ではなかった。

唯「みんな表情が硬いなぁ。もっとリラックスして。
せっかくの可愛い顔が、台無しだよ?」

私は首を少し斜めに傾げ、女達に言った。
女達は引き攣った笑顔を見せた。

唯「まあ、いいや。それじゃあ〜行こうか〜♪」

私は女達を引き連れ、パーティールームへと向かった。


唯「やっほ〜、お待たせ〜」

部屋の扉を開くと、5人の美青年達が私達の到着を待っていた。
テーブルの上には様々な御馳走と、飲みかけのグラスが置いてある。

どうやら、私達が来る前から酒盛りをしていた様だ。

男達は私達の姿を見るや、待っていましたとばかりに歓声を上げた。
彼等の手招きに誘われ、私達はそれぞれの席に着いた。

お互いに軽く自己紹介をし、注がれたグラスを手に取り乾杯をする。
皆、一気にグラスの酒を飲み干した。
それを見て、男達が盛大な拍手をする。

私は女達のグラスが空くと、すぐにお酒をそれに注いでまわった。
そして彼女達の耳元でこう囁くのだ。

「さっさと飲め」と。

始めは緊張の面持ちだった女達も、お酒が入るに連れ、自然と場に馴染んでいった。

アルコールの力って、ホントに凄いよね。

「唯ちゃんは飲まないの?」

最初の一杯しかアルコールを口にしない私に、男達が飲酒を迫る。
ルームメイトに知られると大変だから、と私は何とか誤魔化した。

21時20分、初日のパーティーは早めに切り上げる。

最初から彼等を満足させてはいけない。
少し物足りない位が丁度良いのだ。

こうする事で、また次の機会を作りやすくなる。

案の定、男達は明日もまた会いたいと言い出した。
そのニヤケた顔からは下心が滲み出ている。

早く私達と「関係」を持ちたい様だ。

だが、まだ焦らす。
頭の悪い犬はお預けだよ。

名残惜しむ男達に別れを告げ、私達は部屋を後にした。

女達の部屋に戻り、今日の感想を聞く。
アルコールは、彼女達は饒舌にした。

どうやら、彼女達は彼等の事をすっかり気に入った様だ。
次のパーティーの参加も快諾した。

ルックスの良い男達に、上等な酒、豪華な料理。
良い子にしてれば、いっぱい蜜をあげるからね。

私は彼女達に、次回から自由に男達と「接触」する事を許した。

こうして、私達は男達と夜の密会で仲を深めていった。


7日後、パーティールームにて。

毎夜の密会によって、女達と男達の仲は既にかなり親密なモノになっていた。
美形、金持ち、権力者。そんな男達に、この女達が喰い付かない筈がない。

貴女達みたいな上辺だけの付き合いには最高の相手でしょ?

それぞれがカップルを作り、皆が居る前でも気にする事なく、淫らに戯れている。
その様子から、既に男女の関係になっている事は明らかだった。

ボ「今度二人っきりで会わない?」

私は食事の時と、パーティーの時しか彼に会わない。
二人きりでは会わない私に、少しもどかしい様子だ。

彼の左手が私の太腿をなぞる。
パーティーの時、彼はいつも私の左横に座り、私の体にちょっかいを出す。
彼の左手は次第に私の体を上って行き、やがてスカートの中まで侵入する。
余った右手を私の後ろから右肩に回し、その後服の裂け目から私の胸元に手を伸ばす。

私はそれを我慢し、受け入れた。
必要以上に彼を拒めば、疑念が生まれ警戒されるかもしれない。

今はまだ耐えるしかない。

右手で私の胸を揉み拉き、左手は下着の上から私の秘部を刺激する。
彼の前戯に、悔しいけれど私は性的快楽を与えられ、愛液を洩らし下着を濡らした。
顔は紅く火照り、眉を歪ませる。
私のこの表情を見るのが彼は好きな様だ。
彼は執拗に私を攻め続けた。

唯「どうせ……っんぁ……エッチが……っく……目的なんでしょ……」

ボ「こんなに濡れておいて、『したくない』なんて言わないよね?」

彼は左手に力を込め、下着の上から自らの指を私の中に挿入させた。

唯「ぅっ……!!」

私はその性的刺激に耐えられず、前方に屈み込んだ。
彼も私の動きに合わせ、前のめりな体勢になる。

唯「私と……付き合ったのは……ぁっ……エッチが……目的なワケ……?」

ボ「まだ無理矢理しようとした事を怒っているの?
あれは君が可愛過ぎたからで、悪気は無かったんだよ。
二度と強引にはしないから、機嫌直してよ……」

今も許可無く私の体に触れているクセに……。

唯「今は……っん……あなたと……エッチ……する気は……んんっ……無いから……」

そう、彼は小さく呟き、両手で貪る様に私を強姦した。
私は抗う事も出来ず、ただただ彼の欲望のままに陵辱された。

その攻め苦が終わると、私はソファーにぐったりと横になった。
息を荒げ、顔を歪め寝そべる私を、彼は厭らしい顔で見ていた。

彼は間違いなく「S」だ。

それから数日間、夜の淫らなパーティーは続いた。


そんな毎日に、変化が訪れた。

女4が遂に薬を手に入れてきたのだ。
彼女は「おねだり」をし、薬を2袋貰い受けたのだという。
それを私に差し出した。

女4「これ、言われた通り持って来ました」

唯「おお、ありがとう、女4ちゃん!」

女「これであたし達は自由なんだな?」

唯「うんうん、後はみんな好き勝手にすればいいよ」

女2「もうあんたと会わなくていいんだよな?」

唯「勿論だよ。だって、私達……」

友 達 で も な ん で も な い で し ょ ?

女達は皆彼等に取り入る事に成功し、美味しい汁を吸わせて貰っている様だ。
だから言ったじゃない。悪くない話だってさ。

自室に戻り、私は一方の袋を開き、ちょこっとだけ舐めてみた。
僅かな量にも関わらず、まるで大量のアルコールを摂取したかの様な感覚。
この漲る高揚感と性的快感……。これは本物だ。

やっと準備が整ったよ。


次の日の朝食後、私は彼に二人きりで会っても良いと伝えた。
彼は夜のパーティーの後、自分の部屋に来て欲しいと言った。
どうやら、私と朝まで一緒にいたいようだ。

私はそれを承諾した。

夕食時、私達3人はいつも通り一緒に食事をする。
これでこの男と食事を共にする事も最後だ。

ムギちゃんは悲しむだろうけど、そんなに悠長にはしていられない。
長引かせれば、ムギちゃんが傷付けられるかもしれないのだ。

それに、これ以上彼との肉体関係を拒み続けるのもまずい。

だから今日、全てを終わりにするんだ。

紬「今日の唯ちゃん、いつもよりいっぱい食べるのね」

唯「うん、夜中お腹減ると困っちゃうからね〜」

ボ「そうだね、今日は僕も多めに食べておこうかな」

私はお腹にありったけの食材を詰め込んだ。

腹が減っては戦はできぬ、だよ。


夜のパーティーでも、私は台の上にある料理に片っ端から手を伸ばした

ボ「ちょっと食べ過ぎじゃない?」

唯「今日はいいの! うっぷ……」

これ以上は無理か……。
まぁ、これくらい食べておけば十分かな。

パーティー会場を後にし、医務室でムギちゃんと合流、部屋に戻る。

就寝前、私はムギちゃんのお酒に睡眠薬を細かく砕いて混ぜた。
彼女はいつもの2倍の量の睡眠薬を飲む事になる。
大丈夫、安全性は医師に確認済みだよ。

彼女はそれに気付かず、グラスを飲み干した。
これで明日は、遅くまでゆっくりと眠っていてくれるだろう。

ごめんね、むぎちゃん。

私はムギちゃんが寝入ったのを確認した後、ベッドを抜け出し、着替え、彼の部屋に向かった。

私の胸は高鳴っていた。
やっと、やっとこの時が来たんだ。

あの男を殺す時が。


ボ「いらっしゃい、唯ちゃん」

彼は機嫌が良さそうに、笑いながら私を部屋に招き入れた。
これから自分が殺されるとも知らずに。

唯「お邪魔します」

部屋に入ると、台の上にはワインが入ったボトルと、空のグラスが2つ置いてある。
これから私と乾杯をする気なのだろう。計画通り。

後は、どうやって気付かれず、彼のグラスに薬を盛るかだ。

私のプランでは、ドジを装い彼にお酒を引っ掛け、シャワーを勧める。
彼が浴室にいる間に、グラスにお酒を注ぎ薬を仕込む算段だ。

しかし、彼の一言でその計画は不要な物となった。

ボ「シャワー浴びてきてもいいかな?」

彼はまだシャワーを浴びていなかった。
私にとっては千載一遇の好機だった。
態々怪しまれる様な事をせずとも、彼がこの場からいなくなる。

唯「うん」

私の顔から笑みが零れた。
初めて彼に向けた、偽りのない笑顔だった。


彼が浴室に移動した後、私はワインボトルのコルクを抜き、2つのグラスにそれを注いだ。
持って来た薬をワインに混入し、持参したマドラーで入念に掻き混ぜる。
少し泡立ってしまった為、近くにあったティッシュで上手くそれを吸い取った。

もともと1袋の薬で行う計画だったが、2袋なら効果は2倍。
確実に彼を行動不能状態に出来る筈だ。

汚れたティッシュ、薬の袋、マドラー、それらの要らなくなった物は、部屋に設置されているゴミ箱に捨てた。
用心の為、中に入っている紙屑の下にそれらを沈めた。

白のバスローブを身に纏い、彼が脱衣所から出てきた。
私は必死に高ぶる感情を抑え、冷静を保とうとしていた。

ボ「唯ちゃんもシャワー浴びる?」

唯「私は自室で浴びてきたので」

私は薬の入っていない、手前のグラスを手に取った。
必然、彼には薬物の混入されたもう一方のグラスが渡る。

ボ「それじゃあ、乾杯しようか」

唯「はい……」

私はグラスに口を付けた。同様に、男の口にもグラスが近付く。


飲め。


ボ「どうしたの?」

彼の手が突然止まる。
あと僅かという所で、彼は口からグラスを離した。

唯「えっ?」

ボ「そんなに顔をじっと見詰められたら、飲み辛いよ……」

私は無意識に彼の口を凝視していた。
しまった、功を焦り過ぎた。
私は急いで彼から視線を逸らした。

ボ「僕の顔に何か付いてる?」

唯「いえ……」

落ち着け、彼が手に持ったワインを飲む事は確定事項なんだ。
余計な事さえしなければ、確実に薬入りのワインを口にする。
私は何もしなくていい、何もしない事をすればいいんだ。

ボ「ははは、唯ちゃんは照れ屋だね」

彼がグラスを再び口に近付けた。

ボ「痛っ!」

次の瞬間、彼のグラスの中身が全て私に浴びせられた。

ボ「ご、ごめん、今なんか手が攣っちゃって……いたたた……」

唯「い、いえ、大丈夫です」

ボ「本当に申し訳ない、上着がワインで汚れてしまったね……。
体にも掛かっちゃったみたいだ。シャワーを浴びておいで?」

どうしよう……。
ここでシャワーを断る事は不自然……だよね……?

唯「それじゃあ、シャワーをお借りします……」

私は大人しく彼の言う通りにする事にした。

浴室でシャワーを浴びながら、私は考えていた。
彼は本当に手が攣ったのだろうか。

薬入りのワインをそんな事で零すなんて、偶然にしては出来過ぎている。
もしかして、何か他意があってワザとそうしたのではないか……?

その時、脱衣所に人の気配を感じた。
曇りガラス越しに見える人影……彼がそこにいる。

彼は浴室で事をするつもりなの……?

私は今、当然の如く丸腰だ。
腕力では彼に敵う筈もない。

彼がもし、この場で強引に迫ってくれば、それを防ぐ術など無い。

抵抗など無駄だろう。
蜘蛛の巣に絡め取られた蝶の様に。

しかし、彼は浴室には入って来ず、そのまま脱衣所から出て行った。
浴室での情事という最悪の事態は避けられた。
私はホッと胸を撫で下ろした。

唯(いや、私はどうしようもない馬鹿だ……)

何故、今、この状況で安心など出来る?
事態は明らかに悪化しているのだ。

何故、彼は脱衣所に来た?何の為に?
彼が私に対して、何らかの意図を持って行動している事は明白じゃないか。
にも拘らず、私は彼の意中を全く読めていない。

私は今、非常に危険な状態にある。

……。

……危険?

私は今、本当に危険な状況にいるのだろうか……?

いや、私は決して憂慮すべき状態になど陥ってはいない。
何故なら、今、私は生命の危機などとは無縁ではないか。

仮にここで彼を殺せなくても、それで私が死ぬワケではない。
せいぜい、あの男に私の「初めて」を奪われる程度の事だ。

それに比べて、彼はどうだ。
今まさに、私にその命を狙われている。

考えて見れば、私より彼の方が遥かに危機的状況に在るではないか。

私と彼のゲーム。
彼が勝てば、私の処女を奪い、この体を欲望のままに堪能する事が出来る。
しかし、負ければ自らの命を失う。それは彼の全てを失う事と同義。
私と彼ではベットしている物の重みが違い過ぎる。

ゲームオーバーがあるのは彼だけ。

不公平であり、一方的。
そう、これは私が圧倒的に有利なゲーム。
彼にとっては「理不尽なゲーム」なのだ。

だが、彼に文句を言う権利など無い。
これは彼の意思で始まったゲームであり、私が望んだ物ではないのだから。
彼の悪意と欲望が招いた破滅のゲームなのだ。

だとすれば、私はこのゲームを大いに楽しもうじゃないか。

彼は常に勝ち組だった。
顔が良く、金持ちで、地位も約束されている。

人生というゲームの中で、彼は一度も負けた事など無かったであろう。

しかし、それは人間との勝負での話だ。
彼は一度としてゾンビと戦った事は無い。

だから、彼は知らないのだ。
ゾンビというモノを。

ゾンビっていうのはね、完全に殺さない限り、ずっと追い掛けてくるんだよ?

お前が私を殺さない限り、私はお前の後をずっと追い掛ける。
どこまでもどこまでも、お前の肉を齧り取る為にね。
そして私は、お前が死ぬまでその体を貪り続けるんだ。

今からお前に、その事をたっぷりと教えてやる。

浴室から出ると、脱衣所の棚から私の衣服が全て無くなっていた。
バスタオルも無い。そこには、小さな手拭いが1つ置いてあるだけだった。

私のその小さな手拭いで体を拭いた。
しかし、その手拭いでは全身の水分を拭き取る事など出来なかった。

唯(体を隠す事も出来ないね)

だが、そんな事は最早どうでもよい。
恥じらいなど、今の私には不要だ。

私は濡れた手拭いを投げ捨て、そのまま脱衣所を出た。

ボーカルは一人、空になったグラスを手に持って眺めている。
テーブルの上にも、中身のないグラスが置かれている。
どうやら、新しい物を用意した様だ。

彼の近くの棚には私の衣服と、隠し持っていた物が置かれていた。
スタンガンとナイフ。私の護身用の武器。

こいつ、知ってたな……。

私の気配に気付き、こちらに視線を向けた。
まるで濡れた私の体の水滴を舐め取るかの様に、
じっくりと厭らしい笑みを浮かべながら私を視姦している。

髪から雫が滴り落ちる。
私は一糸纏わぬ姿のまま進み出た。

私と彼はテーブルを挟み対峙した。


ボ「女の子が、こんな物騒な物を持っていたら駄目だよ?」

彼は私の服の上に置かれたスタンガンを手に取り電源を入れた。
それは青い火花を飛ばしながら、バチバチと激しい音を立てた。
スタンガンは、相手に触れずともその音と火花で恐怖感を与える事が出来る。
やっぱりこいつ、生粋のサディストだ。

ボ「まあいいや。気を取り直して乾杯しようよ」

彼はテーブルの上に置いてあったグラスにワインを注ぎ、私の方へ差し出した。

ボ「どうしたの? 受け取って。大丈夫、今回は『薬』なんて入ってないから」

私は彼からグラスを受け取った。
彼は左手に持っていたグラスに、自らワインを注いだ。

ボ「それじゃあ、乾杯しようか」

唯「……何に乾杯するの?」

ボ「そうだね、唯ちゃんが大人になる記念に……かな」

唯「……。」

ボ「こうなる事が分かってて、僕と二人きりになったんでしょ?
初めての時はちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

なるほど、今回は薬無しで強姦し、痛がる私の姿を見たいのか。
心配しなくても大丈夫。
私はもう痛みには慣れているから。

ボ「そういえば、女4ちゃんがこの前薬が欲しいって言ってきてね。
なんか深刻そうな顔をしていたから、少し分けてあげたんだ。
彼女にも薬の味を教えたら、とても喜んでくれたよ」

女4はこの男から薬を貰ったのか。
その時に、私についての様々な情報を聞き出したんだ。

その情報から、彼はこう推察した。
薬を渡せば、私が二人きりで接触する事を求めてくる。
そして自分に薬を盛り、この前の復讐をする気だと。

彼はそれを逆手に取り、私を誘き出した。
私が仕掛けた罠を見破る事で、私に屈辱と絶望を与える。
その上で私を陵辱し、恥辱の限りを尽くす。

そして私に完全な敗北を突き付ける。
私より自分の方が「強い」のだと体に刻み付けるのだ。
それにより、私は反抗する気力を奪われ、従順になる。

それが彼の「調教」なのだ。

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