密やかに浸透する恐怖(2)



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 コリン・クリービーが、“例のもの”に襲われ、いまは医務室に死んだように横たわっている ――― そのニュースは、月曜の朝には学校中に広まっていた。


 疑心暗鬼が、黒雲のように広まった。一年生は、しっかり固まって、グループで城の中を移動するようになった。一人で勝手に動くと襲われると、怖がっているようだ。



「……単独だろうが複数だろうが、襲われるときは襲われると思うけどね」


「それを言ったら、おしまいだよ」



 廊下のベンチに腰かけて(ジャスティン曰く、優雅に)読書をしていたリンが言うと、アーニーが首を振り、溜め息をついた。



「防ぎようがないとなったら、いま以上に混乱してしまう……収拾がつけられない」


「でも、純血の子といれば、多少はリスクが下がるんじゃない?」



 ハンナが、ちらりとジャスティンを見ながら言った。



「純血は襲わないんでしょう? それなら、純血の子と友達だったら……」



 純血と仲が良いマグル出身者こそ、スリザリンは消したがるだろうな。貴重な純血に悪影響を与えたら困る、なんて思うような奴だし。

 と、リンは思ったが、口には出さなかった。どんな反応が返ってくるか、考えるまでもない。リンは、本に集中している振りをして、会話に参加するのを避けた。



「 ――― だから、ジャスティンは大丈夫よ。私たちがついてるもの」


「アタシは純血じゃないけどね」



 持論を並べたあと、ハンナは、ジャスティンに微笑みかけた。ジャスティン以外の全員が純血だとしている彼女の発言に、ベティが笑う。ハンナたちは驚いてベティを見た。



「アタシ、パパは純血だけど、ママはマグル出身の魔女なの」


「半分は純血なんでしょう? だったら大丈夫よ!」



 いったい何を根拠にしているのやら、ハンナが力強く言った。リンだけでなく、ベティも呆れ顔をしている。スーザンは何も言わなかったが、少し咳き込んだ。アーニーは、少し迷ったあと、ジャスティンの肩をポンと叩いた。



「……まあ、とにかく ――― 心配するなよ。僕らには、リンがついてるんだから」



 この言葉は(いろいろな意味で)効果覿面〔てきめん〕だった。ジャスティンはパァアッと表情を明るくし、反対にリンは、微かに眉を寄せた。

 なんだその言い方は……。一連の襲撃事件の犯人に、リンが対抗できるみたいに聞こえるではないか。

 誤解を招くような言い方をしないでほしい……そんなリンの視線は、ニコニコと話しかけてきたジャスティンに阻まれ、アーニーに届かなかった。



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