狂ったブラッジャー(1)



 クィディッチ・シーズンがやってきた。

 最初の試合はグリフィンドール対スリザリン戦なので、みんな興奮していた。グリフィンドールが、スリザリンをペシャンコに負かしてくれるのを期待しているのだ。

 今年は特にその期待が大きい。ドラコ・マルフォイが、チーム全員に高級箒を買い与えてシーカーになったからだ。要するに、金にものを言わせたマルフォイが許せないわけだ。



「箒がものを言うか、乗り手が勝るか……とても見物じゃない?」



 リンの肩からぶら下がっているスイが、リンに話しかけた。ちなみに、彼女らは、観客席には行かず、階段の途中のところで観戦している。



「…………」



 無言のリンの視線の先には、ブラッジャーにつきまとわれているハリーがいた。暴れ玉の攻撃から、必死に逃れている。

 通常、ブラッジャーは、多くの選手を箒から振り落とそうとするものだ。しかし、あのボールだけ、試合開始直後からハリーだけを狙っている。

 誰かが細工したのだろうか? リンが眉を寄せる先で、グリフィンドールの双子が、ブラッジャーからハリーを守ろうと頑張っている。


 しばらくして、ついにグリフィンドールがタイムアウトを要求した。



「勝敗の前に生死に関わると思う。ねえ、どうにかできない?」



 スイがリンを見上げる。リンは少し逡巡し、溜め息をついて肩を竦めた。何やかやと、リンは、スイの頼みは無碍〔むげ〕にできないのだ。

 目立つことはしたくないが、仕方ない。リンが腹を括ったとき、上から悲鳴が上がった。ブラッジャーがハリーの腕を強打したのだ。スイは瞬時に顔色を悪くした ――― 予定よりも早い。



「リン、早く!」


「……分かってるよ」



 試合再開後もハリーだけを狙って攻撃しているブラッジャーに、リンは意識を集中させた。一瞬、リンの目が、金色に輝いた。




 それからは、あっという間の出来事だった。

 突然“正常”に戻って暴れ始めたブラッジャーに驚きつつも、ハリーは、マルフォイの左耳の近くにいたスニッチを、折れていない方の手で捕まえた。試合終了 ――― グリフィンドールの勝利だ。


 チームメイトに囲まれる彼を見届けて、リンは階段を降り始める。いつまでもここにいたら、上で足音を立てている大勢の観客の群れに呑み込まれかねない。

 地面に足をつけると、グラウンドの方で悲鳴が上がった。……あとで知ったのだが、このとき、ロックハートがハリーの腕の骨を抜いてしまったらしい。



→ (2)


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