開かれた謎の部屋(2)



「なにを言う。かわいい後輩を愛でる、心優しい先輩だぞ? 迷惑に思われるはずがない」


「その妙な自信はどこから来るんですか」


「俺の中から出てきてるに決まってんだろ? しっかし生意気だなぁ、リンは」



 ニコニコ笑顔で、リンの頭を撫で回すエドガー。心なしか、リンとの距離が近い。リンは気にしていない(諦めた)様子だが、見ている側のスイは、イライラと尻尾を振っていた。



「……エド」


「んー?」



 静かに名前を呼んだセドリックを振り返り、エドガーは、パチリと瞬きをしたあと、肩を竦めた。「はいはい、帰りますよ」と、リンから手を離し、ひらりと手を振る。



「じゃ、またな、リン。このキャンディーは、俺の趣味じゃないけど、もらっとく。かわいい後輩からの、初めてのプレゼントだからな」



 パチンと、きれいなウインクを寄越して、エドガーは、リンの頭の上に、何かの小袋を置いていった。どうやら、お返しらしい。いったい何が入っているのやら。

 リンは、あとで開けようと、それをテーブルの上に置いた。スイは、それに対し、なぜか渋面を浮かべていた。


 ちなみに、先輩二人を見送る際、リンは、セドリックにキャンディー(レモン味)を渡しておいた。エドガーだけでは、不公平かと思ったからだ。

 セドリックは、一瞬、やけに驚いた顔をしていたが、ちゃんと受け取ってくれた。文句は言わず、お礼だけを述べて。笑顔も忘れない。よくできた人である。


 感慨を抱きながら、リンは、かぼちゃパイに手を伸ばした。一部始終を見ていて、いろいろと思うところがある様子の友人たちは、とりあえず気づかないふりをする。

 ああ、今年も、かぼちゃパイは絶品だ。リンは、ぼんやりと思った。

 ベティとジャスティンの、よく分からない論争が勃発する、三秒前のことだった。




**


 いろいろな意味でドタバタしたパーティーが終わり、リンたちは寮へと帰った。

 談話室で、それぞれ話に花を咲かせていたとき、一人の男子生徒が、息せき切って部屋に転がり込んできた ――― エドガーだ。

 いつものように、どこかで他寮の生徒と話をしていて、フィルチにでも怒られて帰ってきたのだろう……みんなそう思ったが、どうも様子がおかしかった。口をピッタリと閉じて、顔を青くしている。



「……エド? どうかしたのかい?」



 セドリックが、気遣わしげに声をかけた。エドガーは弾けるように飛び上がり、堰を切ったように叫んだ。



「フィルチの猫が殺された! 近くの壁に文字が書いてあった ――― 」



 秘密の部屋は開かれたり
 継承者の敵よ、気をつけよ




 談話室にいた生徒みんなが、思わず息を呑んだ。女子生徒の誰かが、小さく悲鳴を上げる。何かが床に落ちる音もした。

 一気に騒々しくなった室内で、リンは、眉を顰〔ひそ〕めた。



→ (3)


[*back] | [go#]