一味違ったティータイム(3)



「それはありがたい! なにせ量が多いのでね ――― ああ、魔法を使っても構わないよ!」



 本に手を伸ばしたリンに、フリットウィックが慌てて付け加えた。重たいものなので、直接持ち運ぶのは難しいだろうと心配したのだ。

 リンの細い腕を見つめるフリットウィックに、不思議そうな顔をしたリンだったが、せっかく許可が出たのだったら、お言葉に甘えようと思い、杖を取り出した。


 それにしても、こんなに大量の本を移動させるとは、いったい何がしたいのだろうか。

 疑問を感じたリンだが、深く追及しないことにして、ご機嫌な様子のフリットウィックと並んで歩く。フリットウィックの機嫌がいい理由も謎である。

 まぁ、この先生は、だいたいいつも笑っているか。そうリンが思ったとき、目的地である職員室に到着した。


 フリットウィックが、ドアを開けようと、手を伸ばし……それと同時に、タイミング悪く、ドアがパッと開いた。

 驚いたフリットウィックが「キャッ」と転びかけたので、リンは慌てて彼を支えた。職員室から現れたスプラウトが、その光景に目を丸くする。



「フィリウス! まあ、ごめんなさい! 気づかなくて ――― 」


「いや、いや。大丈夫だよ、ポモーナ……ミス・ヨシノが支えてくれてね……」



 生徒と同僚の手を借り、フリットウィックは、やっとのことで自分の机に辿り着いた。ふうと溜め息をついたあと、はたとリンを見る。



「すまなかったね、ミス・ヨシノ。おかげで助かりましたよ」


「いえ、お役に立ててよかったです。じゃあ……」


「よければ、ミス・ヨシノ、せっかくだし、お茶でもどうぞ!」



 早々に立ち去ろうとしたリンの腕 ――― には届かなかったので、ローブを、フリットウィックが掴んだ。やけにキラキラしている目に、リンは、イエスとしか返答ができなかった。

 医務室行けないかも……と心の中で友人たちに謝罪するリンの前で、フリットウィックが、いそいそとティータイムの準備をする。何故かそこに、当然のようにスプラウトが加わっているが、あまり気にしないことにした。



「おや、ずいぶんと楽しそうですね」



 突然、リンの背後から声がかかった。フリットウィックが「ミネルバ!」と歓声を上げる。振り返るリンと、マクゴナガルの目が合う。マクゴナガルは、なんと、リンにニッコリした。



「ミス・ヨシノがお客ですか? ご一緒しても?」



 面食らったリンが頷くより先に、フリットウィック(「結構、結構!」)とスプラウト(「最初からそのつもりだったわ」)が歓迎した。なんだか嫌な予感を、リンは感じた。




「相変わらず、厨房のエクレアは絶品ですな!」


「確かに。しかし個人的には、タルトの方が好みです」


「私はビスケットが気に入ってますけどね。一口でいけるから」


「ポモーナったら……」



 なんだろう、この意外性と疎外感……とリンは思った。

 和気藹々と会話に花を咲かせる教授陣は、ちょっと ――― いや、だいぶ驚くべき光景だ。目を閉じて会話の内容だけ聞いていたら、普通にガールズトークだ。

 まさか、マクゴナガルがスイーツを食べている姿を見るとは思わなかった。

 驚嘆するリンに、そのマクゴナガルが声をかけてきた(思わず、リンは一瞬身構えた)。



→ (4)


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