ダンスタイム .1



 大広間に入場し、いつもより少し格式が高めの食事と団らんを終えると、ついにダンスの時間がやってきた。

 ダンブルドアがテーブルを片づけてスペースをつくり、さらにステージを立ち上げる。そこに「妖女シスターズ」が登場し、それぞれ楽器を手に取る。そしてランタンが一斉に消え、ダンスフロアが照らし出された。

「リン」

 セドリックが手を差し出してきた。瞬きしたあと、リンが彼の手を取る。その手に掬い上げられるように立ち上がり、リンは彼と一緒にフロアに歩み出た。スローな曲が流れ始める。

 つながれている方の手が、きゅっと握り締められる。それから、セドリックの手が遠慮がちにリンの腰へと回された。困惑に近い感情が沸き起こったが、柔らかく微笑むセドリックの顔を見て、自然と落ち着く。

 ちょっとだけ手が引かれ、それを合図に、リンたちはステップを踏み始めた。習ったものとは微妙に違うステップだったが、セドリックのリードが上手いので、それほど苦ではない。リンはほっと肩の力を抜いた。

 視界の端にほかの代表者たちが映る。ジンとフラーは、さすがとしか言いようがないほど完璧だった。ハーマイオニーとクラムは、たまに動きが変だが、本人たちが楽しそうに笑っているので気にならない。ハリーはパーバティにリードされているようだった。

 やがて観客もフロアに出てきた。リンたちから少し離れたところで、チョウ・チャンとロジャー・デイビースが踊っている。リンとチョウの目が合いそうになったとき、ローレンス・フロントとアリシア・スピネットが二組の間に割り込んできた。

 ローレンスがセドリックと目を合わせてウィンクし、セドリックが苦笑したタイミングで、ちょうど曲が終わった。大広間が拍手に包まれる。続いて「妖女シスターズ」がずっと速いテンポの曲を演奏し出す。

「ちょっと座ろうか?」

 周りの生徒たちのテンションが上がる中、落ち着いたままのセドリックが言った。彼の表情を見るに、こういったテンポのダンスは苦手らしい。リンは頷いて、壁際にあるテーブルの方へと向かった。

「やっぱり、こういう曲の方が『妖女シスターズ』って感じがしますよね」

 適当に手に取ったバタービールの栓を抜きながら、リンが言った。どことなく弾んだ調子の声に、セドリックが首を傾げる。

「もしかして、踊りたかった?」

「いえ、そんなことはないです。こういうテンポの曲は聞く専門なので」

「僕もだよ。聞く分にはいいんだけど、自分が歌ったり踊ったりするのは、ちょっと苦手で」

「そうなんですか? 聞くのも苦手なのかなって思ったんですけど」

「うん、最初はそうだったんだけど、エドガーから勧められて聞いてるうちに、なんとなくおもしろくなってきてさ」

「マジか。俺のおかげか。さすが俺」

 にやりと笑うエドガーに、セドリックが目を見開いた。一方、彼の接近に気づいていたリンは、のんびりと「こんばんは、エドガー」と挨拶をし、バタービールを口にする。

「やっぱしリンは驚かないんだなー。つっまんね」

 言葉とは裏腹にニヤニヤするエドガーへと冷めた目を向けたあと、彼の横にいる女の子(おそらく、彼のパートナー)へと視線を移し、リンは瞬いた。

 白に近い銀色のドレスを着て、その胸のあたりにヒイラギの枝がピンのように留めてある。ふわふわした髪は結うことなく背中に垂らし、クリスマス・リースを細くしたような緑の輪を頭頂部に乗せている(髪飾りのつもりなのだろう)。耳には雪化粧を施された松ぼっくりがぶら下がっている。全体的に見て、なんとなく「クリスマス」をコンセプトにしている感じの服装だ。

「ああ、こいつは俺のパートナーだよ」

 リンの視線に気づいたエドガーが、女の子の腕を引いて、リンとセドリックの前に出す。リンの頭のあたりをぼんやり見ていた大きな目と、リンの目がぱちりと合った。

「紹介するな。レイブンクローの三年生、ルーナ・ラブグッド。ルーナ、こっちはリン・ヨシノとセドリック・ディゴリーだ」

「今日はナーグルにじゃれつかれてるんだね」

 唐突にルーナが言った。挨拶をしようとしていた二人が、出鼻を挫かれ、かつ知らない単語を聞いて、困惑する。ルーナの目はまっすぐリンに向けられていた。

「たぶん、今日はクリスマスでヤドリギがあるから、そこからナーグルが来たんだよ。もっと気をつけた方がいいんだけど、あんたは心配いらないかな。前のラックスパートのときもそうだったけど、みんなあんたに対しては害を与えないみたいだもン」

 ナーグルとラックスパートとは、いったい何のことだろうか。聞いた覚えも本で読んだ覚えもないから、もっと知名度の低い生き物のことだろうか。頭を悩ませるリンの前で、エドガーがククッと笑う。

「なつかれて、被害を受けることなく接することができるって、すごいことだよ。きっと、あんたは何か特別な力があるんだ……」

「……え、と……君は、そのナーグルとかラックスパートが見えるの?」

 夢見るような表情を浮かべるルーナに、リンが質問をした。自己紹介や挨拶はもう置いておいていい気がした。リンの問いに、ルーナは首を傾げる。





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