新入り屋敷しもべ妖精 .2



「モノーは、リン・ヨシノ様が、捨てられるはずだった食パンの耳で美味しい食べ物をつくるのを見て、感動いたしました! 日本のもったいない精神と工夫の技術に感銘を受けたのでございます! あれからモノーは勉強し、和食をつくれるようになったのです。モノーは、リン・ヨシノ様がいいとおっしゃるのであれば、リン・ヨシノ様に和食を振る舞いたいと思っていらっしゃいます!」

「いや、べつに……、あー……じゃあ、頼もうかな」

 すがるような目で見つめられて、リンが折れた。モノーが表情を明るくして、何が食べたいかと聞いてくる。リンは少し考えた。イギリスの屋敷しもべ妖精でも知ってそうな和食……。

「うどん……?」

「かしこまりました!」

 モノーは飛ぶように去った。よかった……うどんのつくり方は知っているらしい。本当は煮物が食べたいが、我慢だ。どのみち主食の米がないのだから。

「リン・ヨシノは、お待ちになる間、紅茶をお飲みになられますか?」

「え? あぁ……じゃあ、頼もうかな。スイの分も用意してくれるとうれしい」

 ドビーの問いに答えると、すぐさま五人の妖精が走ってきた。上に掲げた盆に、ティーポット、二人分のカップ、大皿に盛ったビスケット、カットされたフルーツが乗っている。よくできたサービスだと、スイが尻尾を振った。

「それで、ドビー、ここにいるってことは無事に働き口を見つけたんだね?」

 案内されたテーブルに着き、ドビーから給仕を受けながら、リンが言った。ドビーがうれしそうに笑う。

「ほんの一週間前からここで働いています! ダンブルドア校長がわたくしたちをお雇いくださいました」

「誰かと一緒に来たの?」

「はい、ウィンキーと一緒に来たのでございます!」

「……そっか」

 そういえば彼女も解雇された身だった。人伝に聞いた情報なので、思わず忘れてしまっていた。まあ、覚えていたとしても深く触れないでおくことが最善だろう。

 紅茶を飲みながら、リンはドビーの話に耳を傾ける。その向かいで、スイが大きく口を開けて梨を頬張る。十二月だというのに季節感のかけらもない。

「ドビーは今度の週末、お給料で毛糸を買うつもりです。ハリー・ポッターへのクリスマス・プレゼントに靴下を編むのです! どんなものにするか、まだ決めていませんが……」

 自由な屋敷しもべ妖精の生活について語るドビーは楽しそうだったが、その周りからはどんどん仲間妖精が離れていく。休日や給料を受け取っているドビーに、違和感と抵抗を覚えているのだろう。非難を抱いていると言ってもいい。

 ハーマイオニーならむしろ彼らに演説を行うところだが、リンは違う。ドビーの気持ちも、ほかの屋敷しもべ妖精の価値観も、どちらにも理解と許容を示しているので、何も言わない。

 スイがブドウの一粒を丸ごと頬張ったとき、やっぱり季節感がないと見ていたリンの元へ、モノーが走り寄ってきた。掲げた盆に湯気立つものが乗っている。こぼすのではないかと、リンはひやりとした。

「きつねうどんでございます、リン・ヨシノ様!」

 ……まさか、かまぼこや揚げまで乗っているとは思わなかった。差し出されたものを見て、リンは驚いた。スイもポカンと見ている。

(……屋敷しもべ妖精、すごいな)

 ほかほかのうどんを味わいながら思う。見た目も味も、玄人並の出来栄えだった。




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