こじれた友情 .2



「……言いたいことは、一つですよ」

 乱れた衣服を直しながら、リンは沈黙を破った。

「ドロドロした感情のはけ口に、後輩を利用しないでください。そういうのは、本人と腹を割って話し合って発散してくださいよ」

 寝室へ通じるドアの一つを指差して、リンは念力でドアを開けた。いきなりドアが開いて驚いているセドリックが、そこにいた。エドガーが呆然とする。

「……セド……いつから……」

「ご、ごめん……出ていくタイミングを、逃して、」

「私がエドガーに『笑えてませんよ』と言った辺りからそこにいましたよ」

「ほとんど最初からじゃねぇか」

「ごめん」

 反射的にもう一度謝って、セドリックは親友を見た。眉を寄せて唇を引き結んで、つらそうな泣きそうな顔だった。エドガーはエドガーで、焦ったような悔しそうな顔をしている。

 面倒な人たちだ。そう思いながら、リンは、さっさと二人から離れた。ここにいても邪魔なので、放置して大広間にでも行こう。

 まだ朝も早い。夜遅くまで騒いでいたハッフルパフ生は、まだ当分は起きてこないはずなので、二人とも十分に話し合えるはずだ。

(……しかし、少し強引すぎたかな)

 大雑把に二人を引き合わせたことを少しだけ反省すべきかと考えつつ、リンは寮を出た。

**

 大広間を覗くと、誰もいなかった。食事すら出ていない。

 溜め息をついて、リンは踵を返した。朝食のあとに行くつもりだったが、先にフクロウ小屋に行こう。昨晩シリウスとリーマス宛てに書いた手紙を出さなければ。

 フクロウ小屋に入ると、止まり木に並んだフクロウたちがリンを見下ろしてきた。ヘドウィグが一鳴きし、ピッグウィジョンがリン目掛けて飛び下りてくる。

「……主の許可なく使うのは、気が引けるな」

 難なくキャッチしたピッグウィジョンを見下ろして、リンは呟いた。この子では少し不安だという思いもあるが、それは表に出さないでおく。

「……そこの茶色いメンフクロウさん、頼める?」

 くるりとフクロウを見渡したあと、リンは一羽のフクロウに呼びかけた。指名されたフクロウは、ホーと一鳴きして、パタパタと舞い降りてきた。リンの肩に止まり、脚を差し出す。

 リンは手紙を括りつけ、フクロウを撫でた。気持ちよさそうに目を閉じたフクロウは、リンの「お願いします」という声に目を開けて、もう一度ホーと鳴き、翼を広げて飛び立った。

 それを見送って、ピッグウィジョンとヘドウィグに手を振って、リンは大広間へと帰った。今度は数人の生徒と教師がいて、朝食も振る舞われていた。

 ハッフルパフ生は誰もいない。あの二人はまだ話をしているらしい。グリフィンドールのテーブルにはロンがいた。ネビル、ディーン、シェーマスと一緒だ。ハリーはいない。

 首を傾げていると、一人ぽつんと座っているハーマイオニーが目に入った。ナプキンにトースト数枚を包んでいる。リンは歩み寄り、隣の席に腰かけた。

「おはよう、ハーマイオニー。ロンはいったいどうしたの?」

 ロンを指差すリンを見て、ハーマイオニーは瞬きをした。そして、深々と溜め息を吐き、首を横に振る。それだけでリンは理解した。

「……羨望と嫉妬を拗らせたのか」

「ええ、そう。……リン、なんとかできない?」

「彼らの問題でしょう? どちらも頑固だし、首を突っ込んでも仕方ないと思うよ」

「俺らの架け橋にはなってくれたのに?」

「あなた方は、一押しすれば勝手に解決してくれますからね」

 突然のしかかってきたエドガーを、リンは淡々と払い落とした。ハーマイオニーがついていけずに目をパチクリさせる。セドリックが苦笑した。

「おう、おかげさまで解決したぜ。結論はこうだ。俺はセドリックを全面的に応援する。けど、ハリーを敵視することはしない!」

「耳元で叫ばないでください」

「ありがとな、リン。おいセド、食うぞ!」

 好き勝手に一方的に言って、エドガーは去った。がっしり肩を掴まれて、セドリックが引きずられていく。ただし、リンとすれ違うときに、セドリックも小さく礼を述べた。リンは瞬いて、どういたしましてと呟いた。聞こえなかったかもしれないが。




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