炎のゴブレット .1



「誰が代表者になると思う?」

 翌朝、朝食を取っていたときに、ハンナが言った。

 リンたちはその日、玄関ホールの石段に腰かけて、トーストなどの軽い朝食を取っていた。ハンナたちが「炎のゴブレット」に名前を入れられる様子が見たがったからである。

「ダームストラングからは、絶対にクラムだ。彼以外は考えられない」

 力強く拳を握るアーニーに、ベティが「当然よ」と頷く。その隣でスーザンが「ボーバトンからは誰が?」と首を傾げた。

「誰でもいいわよ。あの魔性の女じゃなければね」

 イライラした調子で言って、ベティがトーストの残り四分の一を丸ごと口に放り込んだ。ハンナが「私も」と同意する。スーザンは何も言わなかったが、表情と雰囲気が同意を示していた。

 ここまで敵対心を燃やすのもどうかとリンは思ったが、黙っておくことにした。アーニーも何か言いたげだったが、黙々とトーストを食べることを選択した。スイが尻尾を揺らす。

「ホグワーツからは誰が出るんだろう……リンは、出られないようですが」

 ジャスティンが手についたパン屑を払いながら呟いた。最後の口惜しげに囁かれた部分は、リンを含めみんなが聞こえなかったフリをした。

「スリザリン生じゃなければ、私は誰だって応援するわ」

「でも、できればハッフルパフから出てほしいなあ」

「セドリックとエドガーが立候補するって言ってるの、アタシ聞いたわよ」

「わぁ、すてき! あの二人のどっちかがいいわ」

 スーザン、アーニー、ベティ、ハンナの順に意見が出た。流れからして、自分も何か言わなければいけないんだろうか……。リンが思ったとき、十数人分の気配と足音がした。

「……ベティ、アーニー、憧れの人が来たよ」

 リンが言った直後、ダームストラング生がカルカロフに率られてホールに入ってきた。カルカロフのすぐ後ろにクラムがいる。ベティとアーニーが立ち上がって、もっとよく見える位置へと移動した。

「一列に並べ。一人ずつ順番に名前を入れるぞ。……よし、では、ビクトール……君が最初だ……」

 カルカロフに促され、クラムが進み出た。床に描かれている「年齢線」を跨いで、ゴブレットの傍に寄る。そして手にしていた羊皮紙を青白い炎の中に投じた。炎が一瞬赤くなり、クラムの顔を照らした。

 やることを終えて、クラムが下がる。次の生徒が「年齢線」を跨いだ。その生徒も終わり、次の生徒が進み出る。炎が、赤くなり、青白くなり、赤くなる。その様子をぼんやり見ていたリンは、ふと見られている気配を感じ、視線を巡らせた。

 ぱちり、クラムと目が合った。数秒見つめ合う。そして、クラムが視線を外した。カルカロフに呼ばれたせいかもしれない。

「……?」

 よく分からない人だ。スイを撫でながら、リンは思った。



 そのあと、リンは、玄関ホールに残って立候補者たちを見ると言うハンナたちと別れて、ハグリッドの小屋へ向かった。ボーバトンの天馬を近くで見たいからだ。

 その旨を告げると、ジャスティンはリンに同行するのを断念した。大きな生き物によほどのトラウマを抱えているらしい。

「君も、よっぽどの物好きだよね」

「だって、天馬なんて日本にはいないし、あれほどのサイズだと、余計に興味がわくよ」

 そんな会話をしながらハグリッドの小屋を訪れたリンは、家主の姿を見て、思わず絶句した。スイに至っては、リンの肩からズルッと滑り落ちかけた。

「よう、久しぶりだな、リン」

 ニッコリ笑ったハグリッドは、一張羅かつ悪趣味全開の毛がモコモコしている茶色い背広を着込み、黄色と橙色の格子縞ネクタイを締めていた。髪は、何かの油をコッテリと塗りたくった上に、二束に括られている。

「俺の住んどるところを忘れちまったかと思ったぞ!」

「……最近、とても忙しかったから」

 リンは、やっとのことでそれだけ言った。容姿には何も触れないことにして、用件を述べる。




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