ボーバトンの美少女 .1



 落ち込むアーニーと荒れるベティを放置して、リンは大広間を眺め渡した。

 浮き足立ち興奮するホグワーツ生、むっつりしているボーバトン生、他校に興味津々でいろいろと眺め渡すダームストラング生。個性が出ている。

 教職員テーブルでは、管理人のフィルチが椅子を追加していた。もっと早くやればいいのにという思いは、胸にしまっておく。それよりちょっとした疑問が浮かんだ。

 どうして彼は、ダンブルドアの両脇に二席ずつ、四脚も椅子を置いている? マダム・マクシームとカルカロフのほかに、あと二人も客が来るのか?

「……国際的な親善試合だから、クラウチ氏でも来るのかな。それで『国際魔法協力部』が組織する大きな行事の説明もつくし」

 のんびり呟くリンに撫でられながら、スイは、この子はどうしてこう察しがいいんだろうかと首を捻って考えた。

「あとは誰だろうね……バグマンさんかな? ワールドカップのとき、なんか詳しく知ってる感じに仄めかしてたし……あれ、当たり?」

 ぎくりと身を硬くしたスイを見て、リンは笑った。相変わらず分かりやすい人である。そう指摘すると、スイは渋面を浮かべて、リンの腕を尻尾で軽く叩いた。

 そうこうしているうちに、教職員が入場した。マダム・マクシームが入場したとき、ボーバトン生が一斉に起立してマダムが座るまで立ち続けたので、リンは感心した。

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた、客人の皆さん」

 静かになった大広間で、ダンブルドアが挨拶をした。とくに外国人からの学生に向かってニッコリする。

「ホグワーツへのおいでを、心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる」

 ボーバトンの女子学生で、まだしっかりとマフラーを巻きつけたままの子が、間違いなく嘲笑と取れる笑い声を上げた。

「……あの人、とっても失礼だわ」

「本当。顔も見せずに……どうしてマフラーを外さないのかしら?」

「そりゃあ、人目に晒せないようなお顔をしてるからでしょうよ」

 ハンナ、スーザン、ベティが言った。辛辣というか、敵意に溢れている。親善はどうしたとスイが思った。リンは三人を無視した。

「三校対抗試合は、この宴が終わったあと正式に開始される」

 一方、ダンブルドアは平然と続けた。さすがの度量である。リンはむしろこちらの方に関心を寄せた。

「さあ、それでは、大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ!」

 目の前の皿がいつものように満たされた。厨房の屋敷しもべ妖精が、今夜は無制限の大盤振る舞いにしたらしい。外国料理がちらほらと見受けられた。

「ジャスティン、そこのシチューをよそってくれる?」

「ブイヤベースですか?」

「うん」

 この機会に外国料理を食べてみよう。そう思って、リンは食事を始めた。欲を言えば和食が食べたい。イギリス料理ばかりはつらい。今度、厨房に行って作らせてもらおうか。

 そんなことを考えながら黙々と食事を進めていたとき、リンの視界の隅をきらりと光る銀色が掠めた。瞬きをして目を向ける。そこにはボーバトンの女子学生がいた。

 グリフィンドールのテーブル、ハリーたちがいるところで、なにやら話しかけている。何を言っているのかは、後ろ姿しか見えないので分からない。ただハリーがブイヤベースの入った皿を彼女の方に押しやるのが見えた。

「リン、なに見てるの?」

「誰、あの女」

 ハンナとベティが、リンの視線の先へ目をやった。リンが「ダンブルドアの挨拶のときに笑った子だよ」と返すと、スーザンが「あら、やっとマフラーを取ったのね」と参入してくる。リンは紅茶を注いだ。




[*back] | [go#]