許されざる呪文 .2 「さて……魔法法律により、もっとも厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者は?」 何人かが中途半端に手を挙げた。アーニーがその中にいたので、ジャスティンが目を丸くしていた。ムーディはアーニーを指名した。「魔法の目」は、まだザカリアスに向けられている。 「えっと……たしか……『服従の呪文』かと。家族が、ずっと前に話しているのを、たまたま聞いて」 アーニーはなぜか自信がなさげだった。どうして家族がそんな話をしていたのか問い詰められるのを不安に思っているようだった。ムーディはその点には触れなかった。 「その通りだ。おまえたちの親くらいの世代なら知っていてもおかしくはない……暗黒の時代に頻繁に使われ、大きく話題になった」 話しながら、ムーディは立ち上がり、机の引き出しを開けてガラス瓶を取り出した。黒い大グモが三匹、中でゴソゴソ這い回っていた。昆虫嫌いのベティが頬を引き攣らせた。 ムーディはクモを一匹だけ取り出し、手の平に乗せて、みんなに見えるようにする。彼が杖をクモに向けるのを見て、ハンナが不安そうな表情を浮かべた。 「インペリオ!」 クモが突然、ムーディの手から飛び降りた。手から垂らした糸を利用して、空中ブランコのように前後に揺れ出す。それから後ろ宙返りをして、糸を切って机の上に着地した。かと思えば、今度は二本の後ろ脚で立ち上がり、タップダンスを始める。 みんなが笑った。無表情に冷めた目でクモを眺めるリンと、せわしなく杖と「魔法の目」を動かすムーディを除いて、みんなが。 「おもしろいと思うのか?」 ムーディが低く唸る。「魔法の目」が、またもやリンに焦点を定めた。 「おまえたちを相手に、わしが同じようなことをしたら、おまえたちは喜ぶのか?」 笑い声が一瞬にして消えた。ずるっと、誰かの肘が机から滑り落ちたような音がした。 「完全な支配だ。わしはこいつを思いのままにできる。その気になれば、こいつを使っておまえたちを攻撃できる……わしがやったという証拠も残さずにな」 コロコロ、杖の動きに合わせてクモが転がり出す。ムーディはとんでもないことをひどく無造作に言ってのけた。ハンナやアーニーが息を呑む。 「『服従の呪文』と戦うことは可能だ。これからそのやり方を教えていこう。しかし、これには個人の持つ真の力が必要だ……誰にでもできるわけではない。呪文をかけられぬようにする方がよい。油断大敵!」 突然の大声に、みんな飛び上がった。ハンナに至っては小さな悲鳴つきだった。ムーディは生徒の反応を気に留めず、クモを瓶に戻した。 「ほかの禁じられた呪文を知っている者はいるか?」 そろりと、ベティの手が挙がった。いつになく元気のない態度に、リンは少し驚いた。普段ならもっと自信満々に挙手をするのに。 「何かね?」 「『磔の呪文』」 「正解だ」 囁き声がベティの口から出てきた。ムーディはベティを一瞥して頷いた。ガラス瓶から二匹目のクモが取り出される。その間も「魔法の目」は、やはりというか、なぜかリンを見つめたままだった。 ムーディはクモに肥大呪文を施した。クモが膨れ上がり、タランチュラよりも大きくなる。ベティが椅子を後ろに引き、ムーディの机から可能な限り遠ざかった。ハンナとスーザンも思わず倣っていた。 「クルーシオ!」 そうこうしているうちに、ムーディがクモに呪文をかけた。クモは脚を胴体側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒して、わなわなと痙攣し始めた。クモが声を持っているとしたら、苦痛に悲鳴を上げているだろう。 「もうやめてっ!」 突然、ベティが叫んだ。金切り声に反応して、ムーディは杖をクモから離した。リンの隣で、ハンナが息を吐き出した。どうやら息を止めていたらしい。荒く肩で息をする彼女の顔色は、ひどく青白い。 ほかの生徒も、とくに女子生徒を中心に、気分を悪くしていた。ベティは胸を押さえ、スーザンは片方の拳をもう片手で握り締め、アーニーは、片手で顔の下半分を覆い、いまや目を瞑っていた。ジャスティンは、ただじっと、青白い顔でクモを凝視している。 ハッフルパフには、ほかの寮に比べて、温厚で平和的な生徒が多い。彼らには磔にされるクモは衝撃的すぎたようだ。 → |