従姉による無意識な躾 .2 「ケイとヒロトって、そんなに厄介な子だったかしら?」 隣のテーブルにいたハンナが会話に参加してきた。「礼儀正しい子たちだったと思うけど……」と首を傾げるハンナに、リンが口を開くより先に、ベティが笑った。 「あの子たち、昨日あれだけ騒いで目立ってたじゃない」 「緊張してたからだと思うわ」 「ハンナって、変なところでポジティブだよね」 「でもたしかに、今朝の彼らは大人しかったわ」 リンが笑った。そのななめ向かいでスーザンが首を傾げる。彼女も、リンと大広間を出たため、二人がハリーたちにした悪戯のことは目にしていない。 「猫かぶってたんじゃないの? 身内のリンお姉様の前だし?」 「でも、ジンの前でもふざけてたよ」 ニヤッと口角を上げるベティに、ハリーが反論する。スーザンも頷いた。ハーマイオニーが眉を寄せて口を開く。 「じゃあ、リンの前でだけ大人しいってこと?」 「崇拝されてるんじゃない?」 「そんなわけないでしょう」 再びからかい出すベティの意見を、リンはピシャリと撥ねのける。ベティは肩を竦めたが、リンの耳に「ジャス、クリービー、フィネガン ――― ノット!」という囁きが届いた。 「何か恩でも売ったのかい?」 「そんなことしてない。一回、軽く灸を据えたくらいだよ」 ロンの意見も否定して、リンはそれからちょっと考えた。いっぱいになった瓶を交換して、新しい瓶に膿を入れながら、小さく呟く。 「でも……そうだな。それ以来、私の前では露骨な悪戯をしなくなったかも」 それだ。全員が異口同音に言った。ベティが「やっぱり猫かぶりで合ってんじゃない」などとブツブツ言うのを遮って、ハンナが疑問を聞いた。 「灸を据えたって、なにをしたの?」 「べつに、ひどいことはしてないよ? ただ一言『怒った』って宣言して、一応の謝罪を受け入れたあと、しばらく延々と、話しかけられても突撃されても泣かれても、ひたすら無視し続けちゃっただけ」 「ひどい!」 「それはトラウマになるわね」 みんなが一斉に叫び、ハーマイオニーが冷静にツッコミを入れた。リンはパチリと瞬いたあと、「そう?」と首を傾げた。 当事のリンとしては、対処に困り、幼いなりに考えた末、母のナツメの癖を真似ただけだ。ナツメと違い、一応「怒った」と宣言し、いったん謝罪を受け入れるなど、親切にしたつもりだったのだが、どうやら「優しい」仕打ちにはならなかったらしい。 そういえば、ケイとヒロトは最終的に泣くばかりだったし、事情を聴いてきた伯父や叔父も微妙な顔をしていた気がする。挙句、リンが「母さんはいつもこうする」と言ったときは、大人二人とも愕然としていた。 いまさらだが、謝っておくべきなんだろうか……。考えていたリンは、友人たちが神妙な顔を互いに見合わせていたことには、まったく気づかなかった。 ましてや、ロンが「リンを怒らせるととんでもないことは、僕もとっくに知ってるさ」とハリーに耳打ちしていたなどとは、夢にも思わないのであった。 |