彼との友情論(3)



「こいつが何をしたか、知らないのか? 一度で五十点も失わせたんだぞ ――― まあ元々、失点ばかり食らってるけど。一点でも点を稼いだこと、あるかい?」


 失笑を受けて、ネビルは一瞬で耳まで赤くなって俯いた。彼をマイケルの視線から庇うように、身体の位置をずらして、リンはマイケルを見据えた。


「ネビルが加点されたか減点されたか、そんなことは私にとってはどうでもいいことだよ。そんなもので、私は友達を選びはしないから」


「へえ、そうか。残念だよ。せっかく忠告してあげたのに」


「残念なのは君の方だよ。点数とか成績とか、客観的ではっきりと目に見えるものでしか人を判断しないなんて」


 淡々とした口調でリンが言うと、マイケルはギュッと顔をしかめた。彼が反論する前にと、リンはさっさと ――― しかし落ち着いた調子で、言いたいことを並べる。


「そういうのって結局、他人が出した評価でしょう? もっと突き詰めれば、先生方の価値観。君は、他人の評価を考えもせずにそのまま受け取って、それで他人を判断してるんだよ。主体性の欠片もない。それでいいの? 人間関係は、もっと主観的に築くものじゃないの?」


「…………」


「もう一つ、ついでに言うけど、世の中も知性だけがすべてというわけではないでしょう? どんなに頭が良くとも、嫌な奴だ最低な奴だと思われる人はいるし、逆もある。人間には、知性以外にもたくさんの構成要素があるでしょう」


 黙って聞いていたアンソニーが、ふむ……と感じ入る素振りを見せた。テリーも確かにと頷く。ネビルはポカンと口を開けてリンを見つめている。マイケルの方は無表情だ。


 周囲の反応はあまり気に留めないことにして、リンは話を続ける。何が言いたいのか、だんだん分からなくなってきているが、どうせ相手は頭でっかちだ。論証ならともかく、自分の意見を述べるだけの行為に、素直に納得されてくれるとは思えない。ということでリンは、特に気にせず、思いつくまま口に出す。


「他人〔ひと〕の価値観を否定するつもりはないけどさ、一つだけを指標にするのって危ういなとは思うよ。たった一つがすべてになっちゃうと、それが崩れたりなくなったりしたときに、立ち直れなくなっちゃうもの」


 レイブンクロー生が持っている価値観は、ある種、プライドといったものに似ているかもしれないとリンは思う。知性を何よりも重視している彼らは、ひっくり返して見ると、知性という判断基準に縛られている。それを高々と掲げながら、それに必死にしがみついているようにも見えるのだ。


 まぁそれはレイブンクロー生に限ったことではないのだが(たとえば、スリザリン生の純血主義とか)。客観的に見ると、何らかのプライドを持っている者たちは、ある意味必死なのだ。ともすれば同情してしまう。全く今の状況に関係ないが、リンはしみじみ思った。


「……ってことで、ネビル、行こうか」


「え?」


 不意打ちを食らって、ネビルの反応が遅れた。それに構わず、リンは杖を振り、彼の荷物を簡単にまとめる。それらを宙に浮かせつつ、ネビルの腕を取り、立ち上がらせる。それから、レイブンクロー生三人を振り返った。


「じゃあ、試験勉強頑張って。私はネビルとやるからさ。ほらネビル、邪魔しちゃ悪いし、移動しよう」


 当惑している三人を放置し、未だに困惑しているネビルを連れて、リンは図書館の奥の方へと歩いていった。


→ (4)


[*back] | [go#]