「印」の謎 .2



 正直、よく分からない話の流れだ。リンは思った。

 特に、クラウチ氏の態度が引っかかる。少し支離滅裂なような気がするのだ。……まぁ、直接に見聞きしたわけではないので、何も言えないのだが。

 リンは思考を切って、話し合いの方に意識を向けた。パーシーとハーマイオニーの口論から、「闇の印」が何たるかについての説明を経て、「死喰い人」が「印」を見て逃げた理由へと、話題が変わっていた。

「連中がほんとに『死喰い人』だったら、『闇の印』を見たとき、どうして『姿くらまし』しちゃったんだい? 『印』を見て喜ぶはずじゃないか。違う?」

「ロン、頭を使えよ」

 未だに治療中のビルが言った。

「連中が本当の『死喰い人』だったら、やつらは『例のあの人』が力を失ったとき、アズカバン行きを逃れるために、必死で工作したはずの連中なんだ。『あの人』に無理やりやらされて、殺したり苦しめたりしましたと、ありとあらゆる嘘をついたわけだ。 ――― リン、もうそろそろ大丈夫だと思う」

 話の途中で、ビルはリンを見た。視線を受けたリンは、いったん治癒を中断して、彼の腕の様子を看る。だいぶ治った感じだった。

「……そうですね。じゃあ、あとは自然な自己治癒でがんばってください」

「ああ。ありがとう」

 きれいに微笑んで礼を言い、ビルは話を再開した。

「僕が思うに、『あの人』が戻ってくるとなったら、連中は僕らよりずっと戦々恐々だろうね。『あの人』が凋落したとき『あの人』との関係を否定して、日常生活に戻ったんだからな……『あの人』が連中に対して、お褒めの言葉をくださるとは思えない。だろ?」

 やはり、頭が良いのは事実だったか……ビルを見上げて、スイは思った。いつもスイを虐めてくるので、その印象がすっかり薄れていたのだ。しかし、そういえば、ホグワーツでは主席で、O・W・Lで十二科目もパスするような人物だった。

 それなのに、あんなチャラチャラした格好で、事あるごとにスイにちょっかいをかけて……。

「……なら、あの『闇の印』を打ち上げた人は……」

 スイが悶々と思考していると、ハーマイオニーが口を開いた。彼女もなにやら考えている様子だ。

「その人は、『死喰い人』を支持するために『印』を出したのかしら。それとも、怖がらせるために?」

「それは、私たちにも分からない」

 ウィーズリー氏が言った。彼曰く、分かっていることは、ただ一つ ――― あの「印」の創り出し方を知っている者は「死喰い人」だけであること。たとえいまはそうでなくとも、一度は「死喰い人」であるに違いないそうだ。

「さあ、もうだいぶ遅い。なにはともあれ、みんな無事だったから良しとしよう。何が起こったか母さんが聞いたら、死ぬほど心配するだろう。あと数時間眠って、早朝に出発する『ポートキー』に乗ってここを離れよう」

 その指示に従って、みんな立ち上がった。スイはジニーに抱え上げられ、リンとハーマイオニーと一緒に、女子テントへと戻った。

 怖がるジニーが離してくれず、仕方なく彼女と一緒にベッドの中に入ったスイは、ふとリンを見た。リンはベッドには入らず、どこからか折り紙を取り出して、なにやら折っていた。

 なにやってるんだと思ったが、ハーマイオニーもジニーも注意しないため、どうすることもできず、ただ諦めて目を閉じたのだった。
 


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