闇の印 .4



「 ――― ヨシノ?」

「……マルフォイ」

 リンが呟いた。ドラコ・マルフォイは、セドリックを一瞥して「ハッフルパフの」と眉を寄せる。スイが、フードから出した尻尾をビシッと振り下ろした。一方、セドリックは「やあ」と挨拶し、リンは小さく首を傾げる。

「どうしたの? 迷子? ご両親、一緒に探そうか?」

「僕は迷子じゃない! 静かな場所を求めて移動してるだけだ!」

「うん、その答えはなんとなく予想してた」

「わ、分かってるなら、ふざけたことを言うな!」

「ユーモアを利かせた冗談を本気にされても困るんだけど……」

 ひくりと頬を引き攣らせたマルフォイは、なんとか自分を抑えたようだった。こめかみの辺りを指先で押さえつつ、溜め息を吐き出す。

「相変わらず、おまえとの会話は疲れる」

 うんざりとマルフォイが言った直後、辺りが緑色に光った。咄嗟に上を見たリンは、目を見開いた。

 エメラルド色の巨大な髑髏が、空に浮かんでいた。緑がかった靄を背負い、口からは蛇がまるで舌のように這い出している。不気味な緑色が、森全体を照らし出す。

「……『闇の印』……」

 爆発的な悲鳴が上がる中、マルフォイが震える声で呟いた。振り返ったリンは、蒼白な顔色の彼を見た。いまにも卒倒しそうな様子だ。セドリックも表情が強張っているし、スイは全身が硬直している。

「……テントに戻ろう、スイ」

 そっとスイの身体を撫でて、リンが囁いた。視線を再び髑髏へと向ければ、ゆらゆら、視線の先で蛇がうごめく。

「お二人も、気をつけて帰った方がいいと思います」

 まだ呆然と空を見上げているセドリックとマルフォイに声をかけて、リンは、足早に歩き出した。



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