クィディッチ・ワールドカップ .2



「ビルたちは、妙に女性の扱いに慣れてますね」

 男性陣の間に、妙に気まずい空気が流れたのを、スイは肌で感じた。ただ一人ビルは、何か言いたげなジニーを上手く丸め込んでいるが。それを見て、スイは「やっぱりあいつが一番危ない」と警戒した。

 そうこうしている間に、ハリーと屋敷しもべ妖精の話は終わったらしい。しまった、聞き逃した……と、リンは頬を掻いた。

 彼女の名前がウィンキーということと、ドビーが給料を求めるがゆえに勤め口を見つけられないこと、ウィンキーが高所恐怖症だということしか、聞けていない。

「聞いてるじゃないか」

 ビルが笑った。スイも、リンの膝の上で、うんうんと頷く。それを見て、チャーリーが興味津々に輝いた目を向けてきたので、スイはジニーの膝の上へと避難した。だが、ジニーの隣から伸びてきたビルの手に捉えられ、くすぐり攻撃を食らうのであった。


 それから三十分の間に、貴賓席も徐々に埋まってきた。

 ウィーズリー氏は続け様に握手をしている。かなり重要な魔法使いたちに違いない。というのも、パーシーがひっきりなしに椅子から飛び上がっては直立不動の姿勢を取るからだ。

 魔法省大臣コーネリウス・ファッジが来たときなど、パーシーは深々と頭を下げたために、眼鏡が落ちてレンズが割れてしまっていた。恐縮しすぎだと思いながら、リンは、ビルの手の内で悶え続けるスイを観察していた。

 ファッジが、ハリーをブルガリアの大臣に紹介する。だが、どうやら言葉が通じないらしい。それに辟易している素振りを見せたファッジが、突然声を上げた。

「ああ、ルシウス!」

 ウィーズリー家のメンバーが一斉にそれぞれ反応を示した。ハリー、ロン、ハーマイオニーが勢いよく振り返る。リンは、ジニーの身体がやや硬直したのを見て、彼女の手を握ってやった。

 それから、ふと視線を感じたリンだったが、とりあえず無視する。しかし、いつまでも視線が消えないので、仕方なしに振り向いた。ドラコ・マルフォイと目が合う。だがドラコは、パッと顔ごと背けてしまった。

「………」

 あれだけ見つめておいて、いざ目が合ったらそれか。わけが分からないやつだ。リンは溜め息をついたあと、顔を前に戻そうとした。その途中で今度は、ウィーズリー氏から視線を外したマルフォイ氏と目が合った。

 マルフォイ氏の口元が少しだけ引き攣る。だが、すぐに平静を取り戻し、ファッジに軽く挨拶をしたあと、妻と息子を伴い、自分の席へと進んでいった。

 リンが顔を前に向け直すと、膝の上にスイが転がり込んできた。ようやくビルから解放されたらしい。ぜいぜいと肩で息をしている彼女に同情を覚えて、リンはスイの背中を撫でてやった。

 そのとき、ルード・バグマンが、貴賓席に勢いよく飛び込んきた。興奮しきって、丸顔がツヤツヤと光っている。

「みなさん、よろしいかな? 大臣、ご準備は?」

「君さえよければ、ルード、いつでもいい」

 満足そうなファッジの言葉を聞くや、バグマンは杖を取り出した。



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