遅い朝食か、早い昼食か .1



「遅かったなあ」

 ハリー、ロン、リンの三人がテントに戻ったとき、ジョージが言った。兄妹と共に地面に座り込んで、なんとも退屈そうにしている。

「いろんな人に会ったんだ。火はちゃんと熾〔おこ〕ったのかい?」

「まあ、なんとかな」

「我らが頼れる頭脳、ハーマイオニーの尽力でね」

「大変だったのよ。パパがかなりマッチと遊んでたから」

 水を降ろしたロンの問いに、フレッド、ジョージ、ジニーが答えた。末妹の肩に乗っていたスイがすぐさま、水を降ろしたリンの肩へと飛び移る。どことなく咎めるような目をしているスイに、リンは無視を決め込んで、ウィーズリー家の三人を見下ろす。

「君たちは手伝わないの?」

「もちろん、手伝うって言ったわ」

「けど、先生に『余計なことをしないで』って言われちまったからな」

「だからここで授業参観してたんだ」

「……『授業参観』なんて言葉、イギリスにもあるの?」

「そこ?!」

 今度は、ジニー、ジョージ、フレッドの順に答えが返ってきた。リンの的外れな感想には、やはりロンがツッコミを入れた。スイも尻尾でリンの背中を叩く。

 笑うウィーズリー家の三人組に、至って真面目にスルーするリン。ハリーだけが反応に困っていた。



 水汲み隊の帰還に気づいたハーマイオニーとリンがバトンタッチして、のそのそと食事の準備が始まった。

 リンの予想通り、一家のテントは競技場への大通りに面しているらしく、魔法省の役人が気忙しく行き交った。彼らと丁寧に挨拶を交わしつつ、ウィーズリー氏は役人の名前と所属をひっきりなしに解説した。

 魔法省に対してさほど関心を持っていないリンは、解説を耳に入れつつも、料理する手は止めなかった。一瞥はするが注視はしない彼女に、フレッドが「パーシーと違ってクールだ」と言った。

「クールもなにも、だって私には関係ないし」

「将来、ひょっとしたら就職するかもしれないぜ?」

「あり得ないよ」

「いや。リンなら充分あり得る」

 揃って真顔で言う双子に、リンは肩を竦めた。静かに卵とソーセージの入ったフライパンを火にかける。そのとき、誰かが森の方からゆっくり歩いてきた。ビル、チャーリー、パーシーだ。

「パパ、ただいま『姿現わし』ました」

 わざわざ大声で報告するパーシーに、フレッドとジョージが顔をしかめた。それに笑みを漏らしながら、リンは手早く調理を済ませにかかった。



 昼食を半分ほど済ませたときだった。

 機嫌よく会話混じりの食事をしていたウィーズリー氏が、急に立ち上がり、ニコニコと手を振り出した。何事かと視線を滑らせれば、大股で近づいてくる魔法使いが見えた ――― ルード・バグマンだ。

 一目見て、リンは、このキャンプ場の中で一番目立つのはこの人だろうと思った。胸のところに巨大なスズメバチが一匹描かれている、鮮やかな黄色と黒の太い横縞が入ったクィディッチ用の長いローブを着ているからだ。

 警戒色……とリンが呟けば、ウィーズリー氏とパーシー、ハーマイオニー以外がみんな吹き出した。そのとき、バグマンがついに一家の前に到着した。




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