寄り道だらけの水汲み .2



「クラムって、ブルガリア・チームのシーカーの?」

「そう! ビクトール・クラム! すっげぇ人だよ! 天才なんだ!」

 鼻息荒く語るロンを、リンはスルーした。自分を取り囲んでいる大勢のクラムのうち一人をしげしげと見つめる。

 真っ黒なゲジゲジ眉の、無愛想な顔だ。せっかく動く写真に写っているのに、瞬きするか、顔をしかめるか、はたまた睨むか、それだけしかしない。

 もったいないとも思えたが、それより好感が持てた。あまり自分の評判にこだわりを持っていない印象を受けたからだ。クールというか、自分の軸を持っているというか。鼻を高くしたり調子に乗ったりしていない。

 いくら天才で有名人でファンが多くとも、ロックハートのようにキラキラ目立ちたがり屋だったら、イラッとくる。たぶん、うっかりポスターを燃やしてしまっていただろう。

「……試合で活躍を見るのが楽しみだ」

 自然に上がる口角を自覚しながら、リンは呟いた。

 そして、未だに語り続けるロンと、それを聞きながらポスターを見つめているハリーに声をかけて、再び水道へ向けて歩き出した。



 なんだかんだと、やっと水を汲んで帰る途中、三人はあちこちで他の顔見知りに遭遇した。

 元グリフィンドールのクィディッチ・チームのキャプテン、オリバー・ウッドは、自分のテントにハリーとリンを引っ張っていき、両親に二人を紹介した。

 次に会ったのはハッフルパフのアーニー・マクミラン。彼は、ハリーとロンと並んで歩くリンを見て目を丸くした。

「君はこういう場には来ないかと思ってたよ」

「ちょっといろいろあったんだよ。興味も少なからずあったし」

 友人に微笑んで、リンはテントの前にいたアーニーの両親に挨拶をした。返された挨拶は、さすが貴族というべきか、とても丁寧なものだった。恰幅の良いマクミラン氏を見て、アーニーの体型は遺伝かと、ハリーとロンは思った。

「ハンナもいるから、探してみるといいよ」

「スーザンたちは?」

 首を傾げるリンに、アーニーは気まずそうに笑った。彼曰く、スーザンとベティは切符を入手できなかったらしい。ジャスティンは元々クィディッチには興味がなく、リンはワールドカップに行かないと思ったため、アーニーの誘いを断ったとのことだ。

「……なんで私を基準にするかな」

「仕方ないさ。それがジャスティンだからね」

 苦笑しながら「ここでリンと会ったことがばれたら、僕、ジャスティンに殺される」とぼやくアーニーに、リンはふと笑ってしまった。

 マクミラン一家と別れたあと、今度はチョウ・チャンに出会った。リンは面識がないが、ハリーによるとレイブンクローのシーカーらしい。

 少しだけ興味を持ったリンが視線を向けると、ハリーに手を振っていた彼女はパッと顔を逸らしてしまった。そのままこちらから離れるように歩いていくチョウに、リンは首を傾げる。

「……なにか気に障るようなことしたかな」

「そんなの僕たちが知るわけないだろ」

「それより、あの子たち、誰だと思う?」

 肩を竦めるロンの横で、ハリーが話題を変えた。同じ年頃の外国人らしき子供たちの一大集団を指差している。視線を向けて、ロンが「どっか外国の学校の生徒だと思うな」と話を始める。

 ビルが昔ブラジルのペンパルに呪いの帽子を送りつけられたという話を聞き流しながら、適当に相槌を打ちつつ、リンはテントへと帰った。



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