「ベロベロ飴」騒動 .2



「……君まで『煙突飛行』で行ってどうするんだよ」


「まったく、ホント考えなしなんだから」


「仕方ないわ。ロンだもの」


 リンと同じように溜め息をつき、腰に手を当てて首を振るハーマイオニーに、ジニーが笑った。何気なく扱いひでぇな、スイは内心でツッコミを入れた。そろそろ喋りたいと思うこの頃である。


「まあ、もうどうしようもないし、パパに任せましょ。あたし部屋に戻るわ」


「私も行くわ………またバタバタするだろうから」


「絶対うるさくなるわよ。リンはどうする?」


「私はもう少しここにいるよ」


 ジニーとハーマイオニーは愛想を尽かしたようだ。巻き込まれたくないというオーラを全身から放出して、キッチンを出ていった。リンと二人きりになって、スイはようやく身体を伸ばした。


「ストレスの溜まりすぎで死ぬかと思った」


「ずっと喋れてなかったからね」


 再び本へと目を下ろしてリンが言うと、スイは「まったくだよ」と頷いた。


 例年通りであれば、いま頃は思う存分に話せているスイだが、今年はそれが許されなかった。スイが話せるという事情を知らない人たちばかりと触れ合っているからだ。ウィーズリー家に来てからは、もうほとんど口が利けなかった。


「リンったら、なかなか一人になってくれないんだからさ」


 何かとウィーズリー家のメンバーにつき纏われているリンを、スイは睨み上げた。まだロンドンでシリウスやルーピンと暮らしていたときの方がマシだった、とスイは思っている。


「くっそ、リンのバカやろ」


「双子やジニーがくっついてくるのは、私の責任じゃないよ」


「いや、魅力的なリンが悪い」


 スイはバシバシと尻尾でリンの腕を叩きまくる。理不尽な言い分と地味な痛さにリンが顔を顰〔しか〕めたとき、ビルとチャーリーがキッチンに入ってきて、スイの自由時間は呆気なく終わりを告げた。


「スイはどうしたんだい?」


「私の態度の何かが気に食わなかったみたいで」


 未だにリンを攻撃しているスイを、ちょっと丸くした目で見つめるチャーリーに、リンが肩を竦めた。ビルがクスクス笑い出す。


「可愛らしい攻撃だね」


 それを聞いて、スイは尻尾の動きをピタリと止めた。自分よりずいぶん高い位置にあるビルの顔を睨みつける。


 てっめえ、年下の分際で大人のボクに「可愛い」とか抜かしてんじゃねえぞコラ ――― と、精神年齢が二十六歳を迎えつつあるスイが心中で毒づいていることは、誰も知らない。


「あれ? やめちゃった」


「睨まれてるよ、ビル。怒らせたんじゃないか?」


「僕の言葉が分かったってことかい?」


「そうかもしれない……ちょっと興味湧くなぁ」


 嫌に目をキラキラさせているチャーリーが、スイへと手を伸ばしてくる。スイは慌ててリンの肩の上へと避難した。


→ (3)


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