招待状 .3



 正直なところ、行かせたくない ――― いや、行ってほしくないと思っている。ここにきて、これだけの年月を経て、ようやく一緒にいられるようになったのだ。できるだけ共に過ごしたいに決まっている。


 だが、このワールドカップが見逃せないものであることも理解している。自分だって行けるものなら行くだろう。しかし時期が悪い。自分が無罪だと世に知られてから、まだ二か月しか経っていないのだ。このタイミングで国際的な場に出るのは、当然、望ましくない。


 自分は行けないが、だからといって、リンまで道連れにしていいのだろうか? リーマスは行かないと言ってくれた……たぶん、一言ほのめかせば、リンも留まってくれるだろう。しかし、それでいいのか?


 悩みに悩む親友を見やり、リーマスは嘆息した。


 シリウスの気持ちは、嫌というほどよく分かる。だから、リンが心からワールドカップを望んでいない限りは、シリウスに何かを言うつもりはない。諌めることも、諭すこともしない。


 リンの意思を尊重してやりたい想いはあるが、しかし、ぶっちゃけた話 ――― クィディッチ・ワールドカップなど、大切な人たちと過ごせる時間に比べれば、まったく価値はない ――― と思ってもいる。



 再び手紙を読み出すリーマスを見て、リンは、どうしたら行かせてもらえるだろうかと思案した。二人の様子を見るに、少なくともシリウスの方は、リンを行かせたくないようだ。だがリンは ――― 正直に言うと、行ってみたいと思っている。


 一度は国際的なイベントに参加してみたいし、クィディッチの試合にも関心がある。学期末に、アーニーから「ブルガリア・チームのシーカーがものすごい」と聞いていたので、興味が湧いたのだ。


 ウィーズリー家に泊まる件は置いておくとしても、ワールドカップには行きたい。そのために、この過保護な男性たちを、さてどうやって説得しようかと思考を巡らせ始めたとき、シリウスがついに口を開いた。


「行きたいんだったら、行くといい……引き止めはしない」


 リンとリーマスが同時にシリウスを見た。彼は気難しそうな顔で、しかし真っ直ぐにリンを見ていた。嘘をついているわけではないようだ……リンの顔が、ゆっくりと綻んだ。


「いいの? シリウス ――― 本当に?」


「ああ。行ってこい」


「……っ、ありがとう」


 パッと目を輝かせたあと、リンははにかんだ。雰囲気も、どことなくふわふわしたものになる。実に嬉しそうなリンを前にして、シリウスは身体の力を抜いた。その肩を、リーマスがポンと叩く。


「よかったのかい?」


「まあな。あんな表情が見れただけで十分だ」


「なんとも大人な判断だね……昔では考えられないくらいに」


「うるせぇっての」


 語気を強めるシリウスに、リーマスはクスクスと笑うのだった。



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