意外な待ち人 (1)



 ホグワーツ特急が、キングズ・クロス駅に到着した。


 人混みの中を掻き分けて、リンたちはホームに降り立った。生徒に加えて迎えの人たちが大勢いて、賑わっている。


「ここで別れようか?」


「そうだね……じゃあ、みんな、元気で」


 アーニーの言葉に頷いて、リンは五人に笑いかけた。ハンナたちも笑顔で挨拶を返す。その中で一人元気のないジャスティンを見て、スイは尻尾をヒュンと振った。相変わらず、リンと離れることに相当の苦痛を感じているらしい。


「そんなに落ち込まないで、ジャスティン。二か月なんてあっという間よ」


 見兼ねたのか、スーザンが苦笑混じりにジャスティンの背中を撫でて慰めた。からかおうとしたベティには、ハンナとアーニーが対応する。リンは「よくやるな」と眺めていた。


「リン、手紙を書きます……返事をくださいね」


「いいけど、せめて十日に一回くらいの頻度にしてほしいかな」


 なぜか握手を求めてくるジャスティンに応じながら、リンは、昨年度の夏休みに彼からもらった手紙の量を思い出していた。彼一人だけで、スーザンとアーニーとベティが束になっても敵わないほどだった。ちなみにハンナからの手紙は、ジャスティンの三分の二くらいの量で、似たり寄ったりであった。


 いったい何をそんなに語り合いたいのか……リンには理解できない。


「人気者は大変ねー」


 クスクス笑ったベティの足を、リンはトランクで轢いてやった。痛そうな悲鳴に、スイが思わず飛び上がり、バランスを崩しかけてリンの服にしがみつく羽目になった。



 なんだかんだと騒いでいたため、リンとスイがハンナたちと別れたのは、ホームに降りてから二十分後くらいだった。その頃には、大半の人々がホームを去っていたので、リンは難なく従兄の姿を探し出した。


「ジン兄さん、ごめんなさい……遅くなって」


「いや、気にしてない。……行くか」


 穏やかに微笑んで、ジンは、リンの手からトランクを引き取った。慌てて自分で持つと言い張るリンを無視して、颯爽と歩いていく。


 なんてこった……スイは目を剥いた。昨年に比べて、一気に距離を縮めてきている。ジンの飼っている鷹も、目をパチクリして、トランクの上に置かれた鳥籠の中から主を見上げていた。


 一番狼狽えているのはリンだった。慣れない扱いにドギマギ、何も荷物を持っていない状態にソワソワしている。やれやれとスイが尻尾で背中を叩いて促してやり、ようやく歩き始めた。


→ (2)


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