小さな変化 (4)



「それで、そちらの用件はそれだけ?」


「ああ。……悪かった」


 ポツリと呟いたマイケルに目を瞬かせ、リンは「だからいいって言ったのに」と呆れる。マイケルは頬を染めて眉を吊り上げた。


「わ、わざわざ呼び出したことに対する詫びだよ!」


 明らかに違う。他人から鈍いと言われ続けているリンでも分かった。スイは溜め息をついた。まったく素直じゃないというか、なんというか。アンソニーたちも肩を竦めている。


 ヒョイヒョイ尻尾を揺らすスイを撫でつつ、リンはマイケルに向かって口を開いた。


「……あのさ、一つだけ頼んでもいい?」


「……なんだ?」


「もし君が、私が一昨年に言ったことを覚えていて、少しでも納得か反省をしてくれてるなら、ネビルに謝ってほしい」


「…………」


「あのときの君の言葉は、ネビルを傷つけた。たとえ君もネビルも覚えてなくとも、時効になるってわけじゃない。悪いと思ってるなら、いつでもいいし一言でもいいから、ネビルに謝ってほしい」


 このタイミングで言う私も卑怯だって分かってるけど、と付け加えたあと、リンはアンソニーの方も見た。目が合うと、彼は「僕も謝るよ」と肩を竦めた。自分の態度が悪かったという自覚はあるらしい。リンは微笑んだ。


「よかった。『僕は何も言ってない』とか言い訳したら殴るとこだったよ」


「本当、君って物騒だね」


 アンソニーは微笑んだものの、声は少し上擦っていた。魔法を使わない肉弾戦でもリンが強いことは、昨年度の「決闘クラブ」で周知となっている。あれはやはりナツメの遺伝子なのだろうかと、スイは考え込んだ。


 急にじっと動かなくなったスイを不思議に思いつつ、リンは改めてマイケルたちに笑いかけた。


「じゃあ私、コンパートメントに戻るよ」


「ああ、いきなりで悪かったね」


「ううん、話せてよかった。わざわざ来てもらったし……ありがとう」


「こちらこそだし。じゃ、また新学期にな」


「うん。三人とも、よい休暇を」


 ひらりと手を振って、リンはコンパートメントの中へと帰っていった。彼女の姿を無言で見送ったマイケルに、テリーがシシッと笑った。


「ホント、徹底的に嫌な奴じゃなくて残念だったな」


「うるさい黙れテリー」


「さて、僕はロングボトムのところに行こうかな……マイケルはどうするんだい?」


「………どうせ暇だから、ついてくさ」


 フンと鼻を鳴らして歩き出す友人の姿に、アンソニーとテリーは吹き出した。



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