ヴォルデモート卿の召使い (4) 「シリウス、一緒に殺〔や〕ろうか?」 「ああ、そうしよう」 同じように袖を捲り上げ、ブラックが言った。やめてくれと喘ぎ、ペティグリューはロンの傍に転がり込んだ。 「ロン……私はいい友達……いいペットだったろう? 私を殺させないでくれ……お願いだ……君は私の味方だろう?」 「人間のときよりネズミの方が様になるなんていうのは、ピーター、あまり自慢にならない」 ブラックが厳しく言った。まったくだ、とスイが頷く。ロンは思い切り不快そうにペティグリューを睨みつけ、折れた脚を、ペティグリューの手の届かないところへと捩〔ねじ〕った。 ペティグリューは膝を折ったまま向きを変え、前にのめりながらハーマイオニーを見上げた。 「優しいお嬢さん……賢いお嬢さん……あなたなら ――― 」 懇願しながら、ペティグリューは怯え切っているハーマイオニーのローブの裾を掴もうと手を伸ばす。しかし、その手が届く前に、ハーマイオニーがローブを引っ張り、壁際まで下がった。 生き意地が汚いというか、なかなかに見苦しい男だと思いつつ、リンはハリーの元へと歩み寄った。ペティグリューから庇うように、彼との間に入る。 ペティグリューは止めどなく震えながら、跪〔ひざまず〕き、ハリーとリンに向かってゆっくりと顔を上げた。 直後、ペティグリューは、何かを言う暇もなく、床の上に仰向けに倒れ込んだ。 瞬きをして、リンは前に立つ大人二人を見上げる。ブラックとルーピンが、大股にペティグリューに近づき、肩を掴んで床に叩きつけたのを、リンはバッチリ見た(実に容赦のない行為であった)。ペティグリューは恐怖に痙攣しながら二人を見つめる。 「ハリーとリンにまで命乞いをする気か? どういう神経をしてるんだ? ピーター、恥を知れ!!」 ブラックが大声を出してペティグリューを罵った。すごい迫力……スイは思わず身震いした。不思議そうな顔をしているだけのリンが信じられない。 「お前は、ジェームズとリリーをヴォルデモートに売った。そして……その罪を、シリウスに着せた」 静かな声音で、しかし怒りに身体を震わせながら、ルーピンが言った。 「否定するか?」 ペティグリューはワッと泣き出した。おぞましい光景だった。育ちすぎた、頭の禿げかけた赤ん坊が、床の上で竦んでいるようだった。クルックシャンクスとスイの毛が逆立ち、ハーマイオニーが真っ青な顔で壁に身を寄せる。リンも眉を寄せた。 「私に何ができたというのだ? 闇の帝王は……ああ、君たちには分かるまい……あの方には、想像もつかないような武器がある……私は怖かった。私は、君たちのように勇敢ではなかった。私はやろうと思ってやったのではない……あの方が無理やり、」 「嘘をつくな!」 ペティグリューを遮って、ブラックが割れるような大声を出した。 「お前は、ジェームズとリリーが死ぬ一年も前から『あの人』に密通していた! お前がスパイだった!」 「あの方は、あらゆるところを征服していた! あの方を拒んで、何が得られただろう?」 「史上もっとも邪悪な魔法使いに抗〔あらが〕って何が得られたかって?」 ブラックの顔には、凄まじい怒りが浮かんでいた。ハリーが息を呑んで一歩ばかり後ずさる気配を、リンは背中から感じ取った。そして、細かく震えているスイの身体を優しく撫ででやる。だが、その目は、激怒しているブラックに向けられたままだ。 「それは罪もない人々の命だ、ピーター!」 「君は分かってないんだ!」 ペティグリューも負けじと大声を出し、哀れっぽく訴えた。 → (5) |