ヴォルデモート卿の召使い (1)



「ピーター・ペティグリューをここに呼び出そう。それで、ルーピン先生とブラックの言ってることが本当かどうか分かる……私はそう思うよ」


 淡々と意見を述べるリンを、みんなが呆然と見つめる。スイに至っては、目だけでなく口までも開けている。リンの、まるで幼児たちの喧嘩を仲裁する方法を挙げているかのような口振りに、唖然としたのだ。そんな簡単な話じゃないぞ。


「……少なくとも、ピーター・ペティグリューが生きているという件〔くだり〕の真偽は分かる……どうせ君たちは、ここまで話が進んでいても、スキャバーズがピーター・ペティグリューであるという可能性を、未だ受け入れていないんでしょう?」


 スイの心情を感じ取ったのか、リンが付け加え、ハリー、ロン、ハーマイオニーへと、視線を順番に移す。ハーマイオニーの肩がピクリと動いたのを、リンは認めた。


「……ペティグリューが生きていようと死んでいようと、どっちでも構わないさ」


 ポツリと、水が張っているところに水滴を一つ落としたかのように、ハリーの声が部屋の中に響いた。スイが視線を向けると、ハリーは青白い顔をしていた。


「どっちにしろ、ブラックが僕の両親を裏切ったことには変わりないんだ」


「ハリー、」


「うるさい!!!」


 違うと言おうとしたルーピンに、ハリーが怒号を浴びせた。ルーピンが口を噤〔つぐ〕み、ロンとハーマイオニーが息を呑んで、リンが瞬く。


 スイは眉を吊り上げた……なかなか強情な奴だ。まぁ、ガキだから仕方ないんだが。まったく、思春期の子供は扱いにくいったらありゃしない。ふうと溜め息をつくスイを肩に乗せたまま、リンが一歩ハリーに近づいた。


「逃げるな」


 一喝。そう表現するのが一番良いと思われる一言だった。呟きに近い、果てしなく静かで小さな一言だったが、ハリーは言葉を失った。横っつらを張られたような顔で、リンを見つめる。リンは、無表情でハリーを見据えていた。


「真実がいつも、誰にでも分かるような形で存在するとは限らないし、誰にとっても優しいものであるわけでもない。だけどそれは、真実から目を逸らしていい理由にはならないよ。……分かりにくい真実も、優しくない真実も、ちゃんと存在してるんだ」


「………」


「知るべき真実、知らなくてもいい真実、知らない方がいい真実……いろいろあるけど、結局は、知る側の心の問題なんだよ。 ――― 君が、知りたいかどうか」


 じっとハリーを見つめて、リンは言葉を紡ぐ。ハリーも、ただリンを見つめ返す。スイは、いまの話の流れには全然関係ないと分かってはいたが、リンは本当に十四歳なのだろうかと疑いたくなった。普通の子どもは、こんな説得できっこない。


「……母さんが、ずっと前に言ってたことだけどね」


 困ったように眉を下げたリンの言葉に、スイはホッと胸を撫で下ろした。ああ……なるほど、そうか、そういうことね。安堵の息を吐くスイは、母親の言葉を完璧に記憶していたリンの頭脳の恐ろしさには、敢えて触れない。


 ていうか、ナツメがそんなことを言うとは、いったいどんな状況なのか……リンに負けず劣らず、場違いなことを考えるスイである。そんな相棒には気づかず、リンはハリーに向かって首を傾げた。


「ねぇ、ハリー。君はどうしたい?」


 両親を殺した原因が、誰なのか。


 本当に、父親は無二の親友の裏切りによって死んだのか。


 父親が全幅の信頼を寄せた男は、実は心の中で父親を嘲笑っていたのか。


 それとも ――― 本当に、その信頼に足る男だったのか。


 すべてを知るチャンスが、いま、目の前にある。それを意識して、ハリーは唇を引き結んだ。スイがヒュンと尻尾を振る。


→ (2)


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