「暴れ柳」の根元の秘密 (2) 「このトンネル、どこに続いてるのかしら?」 狭い土のトンネルの中を歩きながら、ハーマイオニーが息を切らして言うと(やっぱり運動不足だとリンは思った)、ハリーが「分からない」と答えた。「忍びの地図」に一応載ってはいるが、道の先が地図からはみ出してしまっているらしい。ホグズミードに続いているらしいが、当然ながら誰も通ったことがないので、真偽は不明だ。 ふと、リンは思った。 どうして、この抜け道については、存在以外“何も”書かれていないのだろう? 羊皮紙の大きさの都合で道の行き先が書けなかった、というのは納得できる。しかし、他の抜け道と違って、通り方などが何も示されていなかったのは、何故なのか。 トンネル内を黙々と歩きながら、リンはいろいろ思考を巡らせる。 入口にある「暴れ柳」を大人しくさせる方法が分からなかった……というわけではないはずだ。あの「柳」を鎮めずして、根元にある通路を見つけるのは、ほとんど不可能なのだから。 となると、優越感・秘密主義などから、意図的に書かなかったか。あるいは ――― 他人に通られては困るような、何らかの理由があって、書けなかったのか。 そこまで考えたところで、トンネルの出口に着く。リンは思考を打ち切り、ハリー、ハーマイオニー、スイに続いて、小さな穴をくぐり抜けた。 そこは部屋だった。雑然としていて、埃っぽい場所だ。壁紙は剥がれかけ、床は染みだらけで、家具という家具は、まるで誰かが打ち壊したかのように破損していた。窓にはすべて板が打ち付けてある。 「……ここ……『叫びの屋敷』の中だわ……」 スイを肩に乗せたリンが、サッと部屋を横切り、開いている右側のドアから薄暗いホールを覗き込んでいると、ハーマイオニーが囁いた。隣に立っているハリーの腕をきつく握り、恐怖に目を見開いている。 ふと、リンは、彼らの傍にあった木製の椅子に目を止め、近づいて観察した。一部が大きく抉〔えぐ〕れ、脚の一本が完全にもぎ取られていた。 「ゴーストがやったんじゃないかな」 「いや、これ ――― 」 ハリーの言葉にリンが返そうとしたとき、頭上で何かが軋む音がした。何かが上の階で動いたのだ。三(四)人は天井を見上げた。リンだけは、すぐに視線を、天井からドア、くぐり抜けてきた穴へと、忙しなく移した。 「……上、行ってみよう」 ハリーの小声での合図に頷いて、三(四)人は隣のホールを通り抜け、いまにも崩れ落ちそうな階段を上った。床には、何かが上階に引きずり上げられた跡が、幅広い縞模様になって光っていた。 踊り場まで上ったところで、リンが灯りを小さく暗くし、たった一つだけ開いているドアを見つめた。 三(四)人が(リンは平然と歩いていたが、ハリーたちは真剣に抜き足差し足で)近づいていくと、ドアの向こうから物音が聞こえてきた。ロンと思しき低い呻き声、それと、クルックシャンクスのものと思われる大きなゴロゴロという声だ。 杖をしっかり先頭に立てたハリーが、ドアを蹴り開けた。 「……ドアは蹴っちゃいけないと思う」 「いや、そんなこと言ってる場合じゃないから」 「ロン!」 呑気に呟くリンに、スイが囁き声でツッコミを入れる。その声にちょうど被せるように、ハリーとハーマイオニーがロンの名前を呼んで、彼のところに駆け寄った。リンは少し迷ったあと、腹を括って部屋に足を踏み入れ、ハリーたちの傍まで素早く行き、振り返った。直後、ドアがピシャリと閉められる。 → (3) |