背負い込み、抱え込み (1)



 レイブンクロー対スリザリン戦が、学期が始まってから一週間目に行われた。僅差だったが、スリザリンが勝った。これは、まあまあ喜ばしいことだった。


 ハッフルパフがスリザリンを二〇〇点以上の大差で破れば、ハッフルパフにも優勝杯獲得のチャンスが、可能性は薄いながらもある。たとえ優勝杯が獲れないとしても、(グリフィンドールがスリザリンを破ると仮定して)少なくとも四位ではなくなる。


 そんなわけで、チーム練習が、週に四、五回へと増量された。それを聞いて、スイは少しだけリンが心配になった。そうすると、リンは二、三晩で一週間分の宿題をこなさなければならなくなるのだ。



「……リン、大丈夫かしら?」



 ある晩、スーザンが心配そうに呟いた。リンは、テーブルを一つと椅子を(自分が座る分も合わせて)三つ占領し、教科書を一ダースほど、それとノートをどっさり置き、数占い表、「古代ルーン文字学」の課題図書の翻訳、マグルが重いものを持ち上げる図式、「魔法史」「魔法薬学」「変身術」のレポートなどを、ものすごい勢いでどんどん仕上げていた。



「………あの速さ、もはや人間じゃないわね」



 ベティが頬を引き攣らせて言った。リンの邪魔にならないようにと、ハンナたちの元へと来ていたスイも、正直そう思った。コンピューター並の処理能力である。



「あんなに勉強できるなんて、すごいよな」


「うん……私だったら、絶対に気が狂ってるわ」



 感嘆の息を吐くアーニーに同意して、ハンナが身を震わせた。確かに、ハンナには耐えられそうにないだろうなと、スイは思った。彼女は、リンの取り巻きたち(リンは「友人たち」だと思っているらしいが、一部を除いては「取り巻き」と表現する方が正しい気がする)の中で一番繊細だ。



「体調を崩したりしないといいんだけど……」


「大丈夫でしょ。だってリンだもん」


「もう! ベティ、少しは真面目に考えて!」


「はいはい、すいませんねー」



 心配そうな顔つきから一転、キッと怖い顔をするスーザンに、ベティが肩を竦める。この二人は、リンが行動を共にするグループの中で、スイの目にも「リンの友人」として映る貴重な存在であったりする。


 リンと対等な目線で接している、とまで言えるかは分からないが、少なくともリンに心酔してはいない。ベティはよくリンに食ってかかったり突っかかったりしているし、スーザンは、むしろ「リンの保護者」だ。


 まったく、こんないい友人に出会えて、うちの子は……と、しんみりするスイ(見た目は小猿だが、中身は人間、そして現在二十五歳)の頭を、不意に誰かがグシャグシャと撫でた。


 うぎゃっと悲鳴を上げて、スイは勢いよく頭上を仰いだ。誰だ、感動の一時を邪魔した不届き者は! という怒りは、相手を見た途端に吹き飛んだ。



「待たせてごめん、スイ」



 リンが、疲れた顔で微笑んで立っていた。あの膨大な量の宿題に一区切りつけてきたらしい。スイは感情のままに、シュバッとリンに飛びついた。


→ (2)


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