処刑宣告と対抗表明 (4)



 ホッとするのも束の間、スイは息を呑んだ。リンも思わず言葉を失う。ハグリッドが、真っ赤な、泣き腫らした目をして突っ立っていた。涙がまるで滝のように、頬から髭、革のチョッキを伝って流れ落ちている。



「リン! 聞いたか!」



 なにを、と聞き返す暇もなかった。ハグリッドは大声で叫ぶなり、リンの首に腕を巻きつけた。慌てて避けつつ、スイはサッと青ざめた。これは只事ではない。なにしろハグリッドは普通の人の二倍はあるのだ。


 スイが必死に甲高い叫び声(猿の鳴き声と人間の言葉の、ギリギリ中間だった)を上げてハグリッドを手やら尻尾やらで叩いて離れさせなければ、リンはハグリッドの重みで危うく押し潰されそうになるところだった。


 やっとのことで解放されたリンは、息を整え、スイに礼を述べたあと、ハグリッドを小屋の中へと促した。立場が逆なのでは、とツッコミを入れる者はいない。ハグリッドはされるがままに椅子に運ばれ、テーブルに突っ伏し、しゃくり上げていた。



「ハグリッド? どうしたの?」



 できるだけ刺激しないようにと優しくリンが尋ねると、ハグリッドはテーブルの上に広げてある、公式の手紙らしきものを、リンの方に押して寄越す。リンはそれを受け取って、肩の上に戻ったスイと一緒になって読み始めた。


 それは学校の理事からの手紙だった。内容は、とっくの昔のことでスイはうっかり忘れていたが、新学期最初の授業での「事故」についてだった。その事件に関してハグリッドには責任はないとしたが、ヒッポグリフ(バックビーク)は「危険生物処理委員会」において事情聴取を受けることが記されていた。


 素早く読み終えたリンは ――― スイはまだ「ハグリッドに責任はないとする」の辺りまでしか読めていなかった ――― 泣き続けているハグリッドを振り返った。



「ハグリッド、」



 しかしリンが何か言う前に、またもやドアがノックされた。リンは顔の向きを再び変える。誰か(声と気配で、複数人だというのは分かる)がドアの前でヒソヒソ話している。グズグズ泣いているハグリッドに客人を迎える旨を伝え、リンはドアに近づいた。



「ハグ ――― ウワッ!」



 再びドアを叩こうとしていた誰かが、リンがドアを開けたので、慌てて後ろに飛び退いた。ちょっとだけ申し訳なく思いながら、リンは顔を覗かせる。



「リン!」


「こんにちは」



 ハリーが叫んだ。リンは軽く会釈して挨拶する。



「どうしてここに?」


「ちょっとね……とりあえず、入ったら? 寒いでしょう?」



 ハリーの質問を受け流して、リンは、ハリー、ロン、ハーマイオニーを迎え入れた。中に入った三人は、小屋の中の様子を見て唖然としていた。



「何事なの?」


 代表してハーマイオニーが聞いた。リンは苦笑して、ようやくスイが読み終えた手紙を渡した。三人がそれを読んでいる間、お茶でも淹れようかと思案したリンは、不意になにかに袖を引っ張られる感覚がして、斜め後ろを振り返った。


→ (5)


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