退院して (2)



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 月曜になって、リンは学校の喧騒の中に戻った。


 校内に漂う雰囲気は多種多様だった。


 グリフィンドールの生徒はだいぶ落ち込んでいたし、スリザリンの生徒は有頂天だった。レイブンクローの生徒は、次のクィディッチの試合では何が起こるかと冷や冷やしていたし、先生方の大半は、構内に侵入して生徒を二人も襲った吸魂鬼に対する怒りを、身体いっぱいに抱えていた。


 ハッフルパフ生たちは、リンに関して神経過敏になっていた。どうやら、リンが箒から落ちたのは、やはり死神犬に取り憑かれているからだと判断したらしい。


 おかげで、リンが何かをする度に ――― たとえそれが、廊下を歩いたり、宿題をしたりすることであったとしても、さりげなくリンを取り巻いて見守るようになった。プライバシーを侵害しない程度の距離は保ってくれたが、それでもリンは辟易した。



「……過保護すぎ……」


「そんだけ愛されてるってことでしょ」



 憎いわねぇと笑うベティに若干苛ついて、リンは彼女の右足の小指に狙いを定めて思い切り踏んでやった。ベティは悲鳴を上げる。



「アンタ最近、陰湿になってきてるわよ!」


「君も最近、空気が読めてない発言が増えてきたよ」


「アタシは素直なだけですぅー」


「あ、もう夕食の時間だ」


「おいコラてめぇ無視か!」



 喚くベティの攻撃を軽くかわして、リンは、宿題をしているハンナたちに声をかけた。みんな苦戦していたようで、宿題を中断する口実を得て嬉しそうだった。



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「ミス・ヨシノ!」



 夕食を終えて席を立ったところで呼び止められ、リンは動きを止めた。声がした方を見ると、スプラウトが小走りでテーブルの間の通路を歩いてくるところだった。はて、なにか用だろうか? 首を傾げるリンの前に来て、スプラウトは言った。



「校長から伝言ですよ。夕食を終えたら校長室に来るようにと」


「……校長が?」



 リンはスプラウトの肩越しに教員テーブルを見た。ダンブルドアの姿は、ない。



「ダンブルドア先生は、もう校長室にお戻りになりました」



 リンの思考を読み取ったらしいスプラウトが言った。リンは納得した。



「分かりました。では、いまから伺います」


「それがいいでしょう……ああ、お待ちなさい、リン。これを」



 スプラウトは、手に持っていたものを、リンの手の中に押し込んだ。不思議に思ったリンが何かを言う前に、リンの方に一歩近づいて囁いた。



「校長室に入るには合言葉が必要です。いまの合言葉は『それ』です」



 たったいまリンに手渡したものを指差して、スプラウトはリンに微笑みかけ、それから教員テーブルへと戻っていった。残されたリンは、手の中のものを数秒見つめたあと、ハンナたちを振り返った。


→ (3)


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