退院して (2) ** 月曜になって、リンは学校の喧騒の中に戻った。 校内に漂う雰囲気は多種多様だった。 グリフィンドールの生徒はだいぶ落ち込んでいたし、スリザリンの生徒は有頂天だった。レイブンクローの生徒は、次のクィディッチの試合では何が起こるかと冷や冷やしていたし、先生方の大半は、構内に侵入して生徒を二人も襲った吸魂鬼に対する怒りを、身体いっぱいに抱えていた。 ハッフルパフ生たちは、リンに関して神経過敏になっていた。どうやら、リンが箒から落ちたのは、やはり死神犬に取り憑かれているからだと判断したらしい。 おかげで、リンが何かをする度に ――― たとえそれが、廊下を歩いたり、宿題をしたりすることであったとしても、さりげなくリンを取り巻いて見守るようになった。プライバシーを侵害しない程度の距離は保ってくれたが、それでもリンは辟易した。 「……過保護すぎ……」 「そんだけ愛されてるってことでしょ」 憎いわねぇと笑うベティに若干苛ついて、リンは彼女の右足の小指に狙いを定めて思い切り踏んでやった。ベティは悲鳴を上げる。 「アンタ最近、陰湿になってきてるわよ!」 「君も最近、空気が読めてない発言が増えてきたよ」 「アタシは素直なだけですぅー」 「あ、もう夕食の時間だ」 「おいコラてめぇ無視か!」 喚くベティの攻撃を軽くかわして、リンは、宿題をしているハンナたちに声をかけた。みんな苦戦していたようで、宿題を中断する口実を得て嬉しそうだった。 ** 「ミス・ヨシノ!」 夕食を終えて席を立ったところで呼び止められ、リンは動きを止めた。声がした方を見ると、スプラウトが小走りでテーブルの間の通路を歩いてくるところだった。はて、なにか用だろうか? 首を傾げるリンの前に来て、スプラウトは言った。 「校長から伝言ですよ。夕食を終えたら校長室に来るようにと」 「……校長が?」 リンはスプラウトの肩越しに教員テーブルを見た。ダンブルドアの姿は、ない。 「ダンブルドア先生は、もう校長室にお戻りになりました」 リンの思考を読み取ったらしいスプラウトが言った。リンは納得した。 「分かりました。では、いまから伺います」 「それがいいでしょう……ああ、お待ちなさい、リン。これを」 スプラウトは、手に持っていたものを、リンの手の中に押し込んだ。不思議に思ったリンが何かを言う前に、リンの方に一歩近づいて囁いた。 「校長室に入るには合言葉が必要です。いまの合言葉は『それ』です」 たったいまリンに手渡したものを指差して、スプラウトはリンに微笑みかけ、それから教員テーブルへと戻っていった。残されたリンは、手の中のものを数秒見つめたあと、ハンナたちを振り返った。 → (3) |