雷の記憶 (5)



「リンは知らない! 君が馬鹿だったことも、君の行動の真意も、君がいま、どれだけ後悔していて、どれだけ重い罪の意識を抱えているかも! リンはなにも分かってない! 分からせてもらえていないんだ!」



 セドリックがこんなに叫ぶのを、エドガーは初めて見た。エドガーの知っているセドリック・ディゴリーは、物静かで温厚で思慮深くて、あまり誰かと衝突することがない奴だ。それがこれだけ豹変するとは……ジンといい、セドリックといい、知り合って五年目にしてなかなか驚かせてくれる。



「リンは絶対に誤解している! リンは、君が彼女を、殺したいくらいに嫌っているか憎んでいるかしていると思ってるはずだ! それくらい、彼女の性格を考えれば分かるだろう……!」



 鋭い眼光が、ジンの目から消えた。セドリックの言葉に胸を突き刺されたからかもしれないし、むしろ、白くて細い指が彼の手に触れたからかもしれなかった。ハーマイオニーがハッと息を呑んだ。



「リン……っ!」



 みんな驚いて一斉にリンを凝視した。血の気の失せた顔をしていたが、目を開けて、力の入らない腕を必死に動かして、従兄を見つめて、彼の手に触れていた。そうしてふと力なく微笑んだリンを見つめ返すジンの目が揺れているのを、ハリーは見た。



「……賑やかすぎて、起きちゃいました」



 少し前までの医務室に流れていた空気が「賑やか」と言えるものとは、ハリーには到底思えなかったが、殊勝に黙っていた。ロンの方は素直に口に出そうとしていたが、ハーマイオニーの脅すような目つき(驚くほどウィーズリー夫人にそっくりだった)に会って口を閉じた。



「……お話、三分の二くらい聞いてしまいました」



 ジンの顔色が、リンに負けないくらいに青くなった。気まずい沈黙が流れ、誰も動かなかった。ただ、スイが尻尾を一回だけ振った。



「………いまも嫌われてるのかと、ずっと思ってた」



 やはりリンが沈黙を破った。ともすれば泣きそうな顔をするリンに、ジンが目を見開いた。



「“あれ”以来、傍に寄ってきてくれることが、本当に少なくなったから」


「ちがうっ……もう合わせる顔がないと思って……それで……」


「……話しかけてきても事務的だったから、祖父様とか伯父上の言いつけがないと、もう接してもくれないのか、って思ってた」


「それはっ、うっかり不用意なことを言って傷つけないようにと、自分を保つので精一杯で……っ、リンの方こそ、近寄ってこないじゃないか」


「……むやみやたらと近寄られたくはないだろうと思って」


「俺が必死に話しかけても、味気無い返答で、すぐ会話を切り上げようとするし」


「……嫌いな人間と話を続けるのは、兄さんにとって苦痛かと思って」


「おかげで、どう接したらいいのか悩みすぎて、どんどん話しかけられなくなって……」


「君ら、すれちがいすぎだろ」



 ポロリと漏らしたロンの頭を、ハーマイオニーが叩いた。強烈な一撃に、ロンが頭を押さえて呻いた。エドガーが不謹慎にも笑ったので、セドリックが彼の足を踏んづける。


→ (6)


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