雷の記憶 (4)



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 医務室の中には、相変わらずの恐ろしい静寂が満ちていた。窓の外から響いてくる雷鳴と、雨風が窓を打つ音、項垂れたジンがヒューヒューと喉の奥で息をする音だけが、聞こえていた。


 ハリーはなにも言えなかった。半ば呆然としていた。一度にいろいろなことを聞きすぎて、上手く情報処理ができない。ふとロンを見ると、ポカンと口を開けてジンを見ていた。ハリーと同じように、ロンもジンが言ったことを整理できていないらしい。自分以上に間抜けな面を晒しているロンに少し冷静さを取り戻して、ハリーはじっくり考えた。



 ジンは一時期リンを嫌っていたことがあって、それで悪戯しようとした結果、想定したより事態が大きくなって、リンが雷に撃たれて死にかけ、挙句にミセス・ヨシノがリンに対してもジンに対してもひどいことを言った。まとめるとこういうことだろうか。



 それでなんと反応をすればいいのだろうか? この場合、ジンになんと言えばいいのだろうか? うんうんとハリーが唸って考えていると、ハーマイオニーが口を開いた。



「ねえ……あの、ジン? あなたが気に病むことじゃないわ」



 チラチラとジンの方を窺いながら、ハーマイオニーは言った。ジンは項垂れたまま反応を返さない。



「だって、あなた、リンを傷つけたかったわけじゃないんでしょう? ただ脅かすだけのつもりで、それが、変な方向になって、」



 ハリーは突然ハーマイオニーの腕を掴んだ。これは逆効果だと、直感で思ったのだ。振り返ったハーマイオニーにハリーが首を振ったので、彼女は殊勝に口を閉じた。そしてまた沈黙が訪れることになった。


 今度の沈黙を破ったのは、エドガーだった。



「なあ、ジン? おまえ結局、リンに謝ったのか?」



 びくりと肩を跳ねさせたあと、ジンは静かに首を振った。



「………謝るタイミングを、逃してしまって」


「……さっさと謝らねぇと、どんどん拗〔こじ〕れてくぞ」



 いいのかと心配そうに言うエドガーに、スイが頷くのが見えた。尻尾が揺れている。ジンは自嘲気味に笑った。



「謝ったら、リンに、つらいことを思い出させてしまう。それに、たぶん、リンは俺を許してしまう……リンはそういう人間だから。だからダメだ。俺の罪は、許されるべきじゃないから」


「……それはどうかな」



 それまで黙っていたセドリックが、強い口調で言った。ギッと、ジンがセドリックを睨む。その眼光の激しさに、ハリーは驚いた。ロンとハーマイオニーは一歩後ろに下がったし、エドガーは頬を引き攣らせ、スイは毛を逆立てた。


 突き刺さるような視線を受けたセドリックは、しかし一瞬たりとも怯む様子を見せず、顎を引いて真っ向からジンを見据えた。



「つらいことを思い出させてしまうとか、許されるべきじゃないとか、そういう問題じゃないと思う。それ以前に、なぜ君がそんなことをしたのかを、リンは知りたがっていると思う」


「それは、さして重要なことじゃない」


「 ――― 君は馬鹿か! 妙に格好つけるのもいい加減にしろ!!」



 淡々と返したジンに、セドリックが怒鳴った。ハーマイオニーが肩を跳ねさせる。ロンは驚きをそっくり顔で表現していて、スイもそうだった。エドガーは興味深そうに同級生二人を見た。


→ (5)


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