お茶の葉 (2)



 昼食を終えたあと、リンたちは分かれ、それぞれが選択した授業へと急いだ。リンは最初にどの授業に出ようか一瞬迷ったが、ジャスティンに縋るような目で見られたので、「数占い」から受けることにした。



「リンがすべての授業を履修してくださって、とてもうれしいです。まあ、どちらにせよ、リンに合わせて受講科目を申請するだけなので、問題はないのですが。しかも僕は今回、ほかの生徒たちより履修登録が遅れていましたし」



 にこにこと上機嫌にペラペラ喋るジャスティンに、リンは「そう」とだけ返しておいた。昨年の悲惨な出来事を想起させるようなことを、さらりと言ってのける彼は強者〔つわもの〕かもしれない。ジャスティンと反対側の隣を歩くスーザンが、苦笑した。



「それにしても、特例として認められるなんて……リンはすごいわね」


「ああ、さすがリンですよね?」


「ハーマイオニーもそうだよ」


「ああ、そうなんですか」


「反応が正直すぎるわ、ジャスティン」



 まったく興味なさそうに相槌を打つジャスティンに、スーザンが眉を下げた。……ジャスティンは、ハーマイオニーが嫌いなのだろうか……ふと、リンは思った。もう少し反応があってもいいだろうに、ちょっと冷たい気がする。


 むしろ彼女の方が、努力家で熱意があって、リンよりすごいと思うのだが。ジャスティンとスーザンの応酬を聞き流しつつ、リンは昨晩の出来事を思い起こした。





 昨夜、ホグワーツに到着して大広間に向かう途中、リンは、寮監のスプラウトに呼び出された。彼女についていった先で、リンはハーマイオニーと顔を合わせ、時間割に関する話を、スプラウトとマクゴナガルから一緒に聞いた。そこで渡されたものが、いまリンの首にかかっている「タイムターナー」―――「逆転時計」だ。


 別に道具をもらわなくとも、リンは時間を操作できる。ヨシノは超能力一家で、リンもしっかりとそれを受け継いでいるのだ。そういうわけで返そうかとリンは一瞬思ったが、やめた。「そうだとしても規則です」と突っぱねられそうだったからだ(実際、マクゴナガルが意味ありげにリンを見た)。


 勉学以外には使用しないこと、誰にも言わないこと。この二つを条件として、リンとハーマイオニーは「逆転時計」を受け取った。


 ハーマイオニーは迷わずしっかり頷いて固く約束していたが、リンは無理だろうと思っていた。リンの友人たちはみんなバラバラに授業を選択したので、彼らが互いの授業について話をすれば、自分が複数の授業を受けていることなんてすぐバレるに違いない。


 夕食後に、スプラウトと、なぜか一緒にいたマクゴナガルとフリットウィックに言うと、三人は目を見合わせて微笑み、「ヨシノに独自に伝わる魔法だとでも言って誤魔化しなさい」と言った。そんな軽い言い訳でいいのかとリンは思ったが、いざ言ってみると通じたので、もう気にしないことにした。


 ちなみに、ジンも三年生だったとき、リンと同じように全科目を登録し、そうやって誤魔化していたらしい。



「最初はいいが、時間が経つにつれて負担がかかってくる」



 時間を操作して必要以上に多くの授業を受けることについて、ジンはこう述べた。時間が足りなくてストレスが溜まる一方だと。



「一年間、どの科目を落とすか考えながら授業を受けるといい。俺としては『占い学』を勧める……あれは、はっきり言って、時間を割く価値がない」



 なにかを大っぴらに批判することの少ないジンが真顔で「クズ」だと評する「占い学」は果たしてどんなものなのか。少しだけ楽しみにして、リンは板書に集中し始めた。



→ (3)


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