吸魂鬼 (5)



「よければどうぞ。ディメンターに出くわしたあとは、チョコを食べるのが一番だから」



 ノットは呆然と、マルフォイは苦々しい表情で、リンを見た。二人とも無言だ。受け取ろうとしない二人に、リンは首を傾げた。



「……未開封だから、毒とかは入れられてないはずだけど」


「…………」



 なんとも言えない顔をして、マルフォイはさらに黙り込んだ。「言うセリフがなんでそれなんだ」と心の中で突っ込んでいるらしいのが、スイには分かった。ノットの方は、ただじっとリンを見つめている。



「………おまえこそ食べればいいだろ」



 しばらくの沈黙のあと、マルフォイが言葉を発した。スイが一種の感心めいたものを覚えるのをよそに、リンが言う。



「いや、君たちの方が顔色悪いから、お先にどうぞ」



 ポイッと、リンは、蛙チョコレートを二つまとめてマルフォイへと放り投げた。マルフォイは目を剥いて慌ててキャッチした。



「……さすがシーカー。ナイスキャッチ」


「当然だ……じゃない! おまえ、食べ物を投げるな! どういう神経してるんだ?」



 パチパチと拍手するリンに、マルフォイが眉を吊り上げる。肩を竦めるリンの腕の中でチョコを頬張りながら、スイは「さすが坊……礼儀作法にはうるさい」と感慨を抱いた。



「じゃあ、帰り道、気をつけて」


「な……っ、おい! 待て、ヨシノ!」



 ひらりと手を振ってコンパートメントに戻ろうとしたリンを、マルフォイが引き止める。リンは立ち止まって再び首を傾げた。



「なに?」


「ぼっ、僕たちを助けたと思って、いい気になるなよ!」


「……? 私、君たちのこと助けてないよね?」


「は?」



 マルフォイがポカンと口を開ける。こういう顔は年相応かつ、生意気じゃなくて可愛いのに……と、スイは場違いなことを思った。リンの方は、マルフォイが唖然とする理由が分からなくて呆然とする。



「だって私、結局は自己防衛で吸魂鬼を追い払っただけだし……助けてはない、よね?」



 同意を求めて、リンはスイを見た。スイは肩を竦めて首を横に振る。リンは数回瞬きを繰り返したあと、困ったように笑った。



「えーと……まぁ……私としては、君たちに恩や貸しを作ったつもりはない、かな」



 というわけで、ちゃんとチョコレート食べてね。


 強引に話を締め、リンは、穴が開くのではないかと思うほどに自分を見つめてくるマルフォイとノットにもう一度手を振って、また引き止められる前にと素早くコンパートメントの中へ滑り込んだ。


 一部始終を聞いていたメンバーは「せっかくなんだから貸し一つくらい作っとけばいいのに」と大いに残念がった。苦笑するリンの肩から座席へと移り、スイは尻尾を一振りした。



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