ダイアゴン横丁にて (5)



「いつも送っている金茶色の薬ですよね? あれでしたら、もう作り方を覚えたので、材料さえあれば学校でも作れます」



 もう? とルーピンが目を見開いてリンを見たが、リンは気に留めず続ける。



「三十日周期、三日連続で煎じればいいですか?」


「いや、単なる周期ではない。月の満ち欠けに合わせてほしい」



 思わずといった風にルーピンは言い、それからハッとして口元を手で押さえた。言うつもりではなかったのだろうか、彼の目には後悔の色が見て取れた。リンは気遣わしげに彼の顔を見上げつつも、質問を続けた。



「……あの、重要なことなので、これだけ質問させてください。月が満ちていくのに合わせればいいのですか? それとも、」


「満ちていく方だ」



 ルーピンが静かに言った。諦めたように深々と溜め息をつき、髪を掻き上げる。彼の顔いっぱいに広がる無数の細かい傷が露になった。



「リン………あの薬は、あれは脱狼薬だ」



 ぐっと拳を握ったルーピンの身体が震えている。リンは、不思議そうな顔で、じっと彼を見つめた。



「私は、狼人間なんだ」



 重たいものを吐き出したような、喉の奥から振り絞って出された声だった。顔を苦痛に歪ませるルーピンを前に、スイはリンを見上げ、しぱしぱと瞬いた。



「……アンニュイなところ失礼しますが、一つだけ言ってもいいですか?」


「………うん、いいよ。なんなりと」



 リンはルーピンを真っ直ぐに見つめて言った。ルーピンは弱々しく頷いた。じゃあ遠慮なく、とリンは口を開いた。



「満月の夜の前に三日薬を用意すればいいってことで間違いないですか?」


「ああ、うん。そうなるね………、え?」


「分かりました。じゃあ、そのように調合しますね。あと、薬は、」


「ち、ちょっと待って」



 テキパキと薬の調合に関して確認をしていくリンを、我に返ったルーピンが遮った。リンは言葉を切ってルーピンを見上げる。



「なにか問題でも? あ、満月の三日前から合計四日分用意した方がいいですか?」


「いや、二日前からで大丈夫……って、そうじゃなくてね」



 必死に話の流れを修正しようとするルーピンを見上げ、スイは「なかなか頑張るなーこの人」と思っていた。ひょいとクッキーを一かけら無造作に頬張ったスイの視線の先で、ルーピンはリンをじっと見つめた。



「いいかい、リン。私は狼男だ……危険な怪物なんだよ」


「どこがです?」



 リンは心底不思議そうな顔で尋ねた。ルーピンはポカンとして、すっかり冷めた紅茶を口にするリンを、穴の開くほど見つめる。スイはクッキーを飲み込んだ。



→ (6)


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