ダイアゴン横丁にて (4)



 待ち合わせている相手は、母の「客」らしい。ここ最近リンが彼女の指導のもと調合していた薬を、いつも買っている人なのだとか。


 そんな人になぜリンが会う必要があるのかリンには正直よく分からないが、ナツメが会えと言ったなら会いに行くしかない。



 少し息を切らせて「漏れ鍋」へ飛び込むと、店内は思ったより混雑していた。これでは探し人が見つからない。ただでさえ大雑把な特徴しか知らないというのに。


 さてこれは困ったと頭を悩ませたリンは、不意に後ろを振り向きながら前方に飛び退く。肩に乗っていたスイが「うぎゃっ」と滑り落ちそうになった。彼女を手で支え、リンは、いましがたリンの背後から手を伸ばしてきていた人物を見上げた。


 ――― この人だ、とリンは直感した。


 ナツメが言っていた「みすぼらしくて、いまにも過労死しそうな男」という特徴に(かなり失礼だとは承知だが)しっかり当てはまる。顔色が悪い上、疲れ果てているような顔つきをしていて、鳶色の髪には白髪が混じっている。着ているローブはクタクタで、あちこち継ぎ接ぎだらけだ。



「……ミスター・ルーピンですか?」



 薬の宛先を口にすると、彼は苦笑しながらも確かに頷いた。





「君のお母さんとは、ホグワーツの同窓でね。いますごく世話になっているんだ」



 ルーピンは紅茶を一口飲んでそう言った。リンも差し出された紅茶を飲みながら話を聞く。スイはテーブルの上でクッキーを咀嚼〔そしゃく〕していた。



「君のお母さんは、魔法薬学に特別な才能がある」



 紅茶に砂糖を加え(もうこれで三杯目だ)、ルーピンはリンを静かに見つめた。



「そして、君はそれを受け継いでいる」



 何度か瞬きをして、リンは「そうですか?」と首を傾げる。ルーピンは頷いた。彼によると、あの金茶色の薬はナツメが独自に開発したもので、従来のものより効果があるが、その分作るのがとても難しいのだとか。


 そうだったのか……と感慨を覚えるリンである。初回で見事マスターしてルーピンの元に送ってみせたリンには、難易度がよく分からなかった。不思議そうな顔をするリンを見上げ、スイは「無自覚な天才って怖いものだな」と思った。



「……私は、今年ホグワーツで働くんだ」



 ルーピンが出し抜けに言った。リンは何度か目を瞬かせる。彼が今年度の「闇の魔術に対する防衛術」の教師ということだろうか。リンは内心ホッとする。ダンブルドアは昨年度の二の舞を踏むことは無事に避けたようだ。



「それで……その、知っての通り、私には薬が必要なんだ」



 ちらちらとリンの様子を窺いながら、ルーピンは途切れ途切れに言った。言うべきか、言わないでおく方がいいか、迷っているようだった。リンが首を傾げ、スイは肩を竦めたが、ルーピンは話すのに神経を集中させていて、まったく見ていなかった。



「私には上手く調合できなくて……できれば君に、薬を調合してほしいと思うんだが」


「いいですよ」



 さらりと、まるで親から買い出しを頼まれでもしたかのように、リンは了承した。



→ (5)


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