魔法薬の先生(1)



 ホグワーツでの授業はなかなかに大変なものだ。魔法史の授業を受けながら、リンは思った。


 まず、この授業は退屈すぎる。講義は一本調子だし、やることはたいしてないし、何より、ビンズの声はどうも眠たくなる。


 リンとしては、もっと活動的な授業の方が楽しくて好きだった。例えば、スプラウトの「薬草学」とか、マクゴナガルの「変身術」とか。フリットウィックによる「妖精の魔法」の授業も、名前は少しふざけている感じがするが、なかなか実用的な授業だ。


 そんなことを考えながら、リンは、羊皮紙に年号や人名を書き込む。とある奇人の名前を書いたところで、授業が終了した。


 みんなと同じように、羊皮紙と羽根ペン、インク瓶、教科書を鞄にしまい込んで、リンは立ち上がった。


「あっ、リンッ!」


 鞄を肩からかけてさっさと歩き出したとき、名前を呼ばれて、リンは振り向いた。少し後ろから、金髪のおさげの少女がリンを追いかけてくる。


 リンは気まずそうな表情を浮かべたあと、通行の邪魔にならないよう少し壁際に寄って立ち止まった。


 ようやく追いついた少女は、当然だが、怒っているようだった。


「置いていくなんてひどいわ、リン」


「……ごめん、ハンナ。つい」


 謝って、リンはハンナと並んで歩き出す。今まで誰かと ――― スイは別として ――― 行動を共にするということがなかったので、本当に「つい」うっかりと彼女の存在を忘れてしまったのだ。


 気をつけないと、とリンはハンナの存在を記憶に叩き込んだ。


「えーと、次は何の授業だったかしら?」


「魔法薬学。レイブンクローと合同」


 ハンナの呟きにリンが淡々と答えると、彼女は言葉を失い、眉をひそめて、露骨に嫌そうな顔をした。


「嫌だわ。魔法薬学って、あのセブルス・スネイプの授業でしょう?」


「……うん、そうらしいね」


 階段の消えてしまった一段を飛び越えながら、リンは、半分聞き流すように返事をした。


 入学して、先輩方から、スネイプについていろいろ聞かされて以来、ハンナはスネイプの授業を受けたくないとずっと言っていたので、彼女が今見せた態度なんて十分に予測できていた。つまり、ハンナはスネイプがあまり好きではないのだ。


 もちろん、彼のことは、リンの耳にも、しっかりと入っている。といっても、スネイプはスリザリンの寮監で、グリフィンドール生を毛嫌いし、スリザリン生を贔屓するということくらいしか覚えていないが。


 贔屓は少し看過ごせないが、別に魔法薬の授業でいい成績を取りたいとか、そういうのでもないのだから、特に問題を起こさなければ、自分にとって不利になるなんてことはないだろう。それがリンの意見だった。


 そもそも、魔法薬学は割と興味がある科目だ――― これは、魔法薬を作って売っている母の影響だろう。


 それに、母から「セブの授業は死んでも受けろ。絶対に欠席するな」と言われている。


 「セブ」というのは、きっとスネイプの愛称なのだろう。いったい二人がどういう関係なのかは疑問だが、母の出身もスリザリンだと聞いたので、何かしら繋がりがあったのだろうと、リンは推測している。彼女に質問はしない(できない)。


→ (2)


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