行ってきます、さようなら、お元気で .2



 ふうと息をついて、クィレルは羽根ペンを一度置き、引き出しから封筒を取り出す。サラサラと宛名を書いたところで、はたと動きを止めた。


 じっと封筒を見つめ、瞬きをしたあと、杖を手に持つ。


 自然と頬を緩めながら、クィレルは杖先を封筒に当て“To.”という文字を消す。それから再び羽根ペンを手に取り、空白のところに“Dear.”と書き込んだ。


 クィレルは緩やかに微笑んで、綺麗に畳んだ羊皮紙を封筒の中にしまう。その宛名を見つめて、乾いたインクの上を、そっとなぞる。指先と呼応して動く、クィレルの伏せがちな目が、小さく震えた。


 目を閉じて、深く息を吸う。緩やかに空気を吐き出したあと、クィレルは目を開け、サッと立ち上がった。


 壁際の棚まで歩いていき、そこから一本の小瓶を取り出す。それをきつく握り締め、クィレルは、しばし虚空へと視線を彷徨わせた。


 数秒後、ノロノロと焦点を瓶に合わせ、瞬きをして、クィレルは決然とした表情を浮かべ、それをローブのポケットに入れた。




 それから、何やかや色々と支度を整えていれば、あっという間に時間が過ぎる。クィレルがふと時計を見ると、もうすぐ夕食の時間だった。


 夕食を食べ終えたら、行かなければならない。深く息を吸い込み、クィレルはローブを翻し、リンの側へと歩み寄った。


 未だに眠っている(眠らせた)リンを見下ろし、クィレルは、タンスから引っ張り出してきた漆黒のローブを、彼女の上にかけた。


 それから彼女の額に手を置き、呪文をかけ直す。リンの呼吸が、より深くなった。


「………さようなら」


 リン、と小さく囁いて、クィレルは踵を返す。振り返らずに、キビキビと歩いて部屋を出る。ドアを閉めたところで、一瞬目を閉じ、すぐに開ける。


(さあ、行きましょうか。ご主人様)


 自分の考えなど、とうに読まれているのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。でも、それで構わない。知ったところで、実体を持っていない彼には、どうすることもできないのだから。


 止められなくとも、足手まといにはなれる。それで十分だ。


(………大いなる『善』のために)


 ――― 覚悟はできた。




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 クィレル難しい、つらい。
 書きたいことが色々とあったんですが、途中で、もう何が何だか状態に。すごい強引にまとめちゃいました;すいません。

 何だか、クィレルは、正義感と自己犠牲精神がとても強そうなイメージです。ハリーとかダンブルドアとかほどじゃないけど、「大いなる善のため」とか、素で思っちゃいそう。だからこそ騙されちゃったんじゃないかな、っていうのが僕の見解です(どうでもいいか)



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