帰還した者たち(3)



「君が喜ぶ知らせがあるが、その前にいくつか言わせてくれんかの?」


「はい、どうぞ」


「ヴォルデモート卿に気をつけよ」



 真剣な目で、ダンブルドアは、リンの目を見つめて言った。リンは、無意識に背筋を伸ばした。



「ヴォルデモート卿は、いつか必ず、なんらかの形で君に接触してくるじゃろう。理由を話すのは後のことになってしまうが、これだけは覚えておいてほしい。ヴォルデモート卿は、ヨシノの類稀なる能力を欲して、あらゆる手段で君を巧みに誘い込む。そのときに決して屈してはならん」


「……なぜ私に、クィレル先生を死に追いやった存在の手を取る必要が?」



 リンが静かに、しかし真っ直ぐダンブルドアを見据えて言うと、ダンブルドアは微笑んだ。



「その心意気があれば安心じゃ……しかし忘れてはならんぞ。よいかな? ヴォルデモートに与〔くみ〕してはならん。どんなものを提示されても、いかなる条件をつけられても ――― たとえ、何者かの関心を引くためや、大切な人の役に立つためだとしてもじゃ」


「………、まるで、そういった理由でヴォルデモートに与〔くみ〕した人を知っているかのような口振りですね」



 特に最後の辺り。そう付け加えてリンが微笑むと、ダンブルドアは、何も言わずに笑みを浮かべただけだった。



「さて、よい知らせを告げる番じゃな」



 ダンブルドアは、リンの反応が待ち切れないかのように声を弾ませた。雰囲気が、先ほどとは似ても似つかない。ある意味すごいと、リンは思った。



「君の小さく、そして不思議な友人じゃが、君の母上が処方した薬で、心身ともに無事回復したそうじゃ。いまはスネイプ先生の研究室におる。いまからでも向かうがよい」



 ほんの一瞬、リンの周りの時間が止まったように感じられた。


 いろいろと思うことはあったが、とにかく急いでスネイプの研究室に行かなければ、という気持ちが湧き上がってきて、リンは、ダンブルドアの笑顔に見送られて、部屋を飛び出した。





「 ――― 失礼します!」


「もう少し静かに入りたまえ」



 地下室の扉を開けると、不機嫌そうな低い声がリンを迎えた。薬品棚の整理を邪魔されて顰〔しか〕め面をしているスネイプに小さく謝り、リンは、彼の横にある机に目をとめた。



「……スイ」



 レーズンを頬張る、元気そうな姿にほっとする。というか脱力する。なんて呑気な……なんとも言えない気持ちでスイに手を伸ばすと、彼女はすぐリンの腕を伝い、肩に乗ってリンの頬にすり寄る。



「……心配かけて、ごめんね」



 本当にその通りだ。言ってやりたい文句は数えきれないほどあったが、リンは何も言わずに笑い返した。



→ (4)


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