スリザリンの継承者(1)



 「秘密の部屋」には、トム・リドルがいた。


 ジニーに駆け寄るハリーたちに、リドルは、彼女が目を覚ますことはないと静かに告げた。ハリーは絶望的になったが、リンがきっぱりと否定した。



「縁起の悪いこと言わないで。まだ生きてる」


「まだ、ね……しかし、かろうじてだ」



 リドルは薄く笑った。いつの間にか、ハリーが投げ捨てた杖を手にしている。それをポケットにしまい込み、リドルは静かにハリーを見つめている。リンが、ジニーに自分のローブをかけたあと、口を開いた。



「……君は“なに”?」


「記憶だよ。日記の中に、五十年間残されていた記憶だ」



 リドルが事もなげに答えた。一瞬だけリンに視線を向け、またハリーに戻す。視線を受けたハリーは、ゆっくりと切り出した。



「ジニーはどうしてこうなったの?」


「そう、それはおもしろい質問だ」



 愛想よく微笑んで、リドルは語り始めた。


 ジニーが、リドルの日記に悩みや心配事を書き込み、同情して親切に返事をくれる彼に夢中になったこと。ジニーがリドルに打ち明けた、心の深層の恐れや暗い秘密を餌食にして、リドルが強くなっていったこと。

 その後、リドルが自分の魂をジニーに注ぎ、彼女を操り出したこと。ジニーにハリーのことを聞いて大いに興味を持ち、会いたいと思っていたこと。そして、新しく狙いをハリーに定めたこと。



「 ――― ハリー・ポッターよ……不世出の偉大な魔法使いヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり。未来なのだ……」



 リドルは貪〔むさぼ〕るようにハリーを見つめて、衝撃的な事実を明かした。

 母方の血筋に、かのサラザール・スリザリンの血が流れているというこの少年が、マグルの父親の姓名を嫌って名を変え、大人になって、ハリーの両親たちを殺したのだと。



「……違うな」



 静かに、だが万感の憎しみを込めて、ハリーは静かに呟いた。握り締めた手の平に、爪が食い込む。



「世界一偉大な魔法使いは君じゃない ――― それはアルバス・ダンブルドアだ! 君は昔も今も、ダンブルドアを恐れている!」


「ダンブルドアは、僕の記憶に過ぎないものによって追放された!」


「……それはどうかな」



 静かに切り返すリンに、リドルが絡みつくような視線を向けた。その視線を受け流して、リンは挑発的に笑ってみせた。



「君がそう思い込んでいるだけかもね」


「事実だ。ダンブルドアは、この城からいなくなった!」


「ダンブルドアは、君の思っているほど、遠くに行ってはいないぞ!」



 ハリーが叫ぶ。リドルは口を開きかけたが、不意にその顔が凍りついた。



→ (2)


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