秘密の部屋(3)



「坊やたち、お遊びはこれでおしまいだ!」



 ロンの杖を握ったロックハートに、輝くようなスマイルが戻っている。



「私はこの皮を少し持ち帰って、女の子を救うには遅すぎたとみんなに言おう。君たち三人は、ズタズタになった無残な死骸を見て哀れにも気が狂ったとしよう」


「そんな嘘ついても、確認のためとか言われてここまで案内させられると思うけど」



 リンが冷静に言ったが、ロックハートは聞いてもいなかった。溜め息をついて首を振るリンを見て、なんでこう落ち着いていられるんだろうかと、ハリーは思った。



「君たち、さあ、記憶に別れを告げるがいい!」



 ロックハートは、スぺロテープで張り付けられたロンの杖を頭上に翳〔かざ〕した。「あ」と、ハリーとロンが声を上げたが、遅かった。



「オブリビエイト!」



 爆発が起こった。ハリーは、咄嗟にリンの腕を掴んで逃げた。天井から、大きな塊が、雷のような轟音を上げて崩れ落ちてきた。

 ローブを引っ張り上げて土埃から身を守り、落ち着くのを待って目を開けると、岩の塊が、四人を二対二に隔てて、壁のように立ちふさがっていた。



「ロン! 大丈夫か!」


「ハリー! リン! 僕は大丈夫だ!」



 崩れ落ちた岩石の影から、ロンの声がぼんやり聞こえた。ロックハートが杖で吹っ飛ばされたという、べつにいらない情報も入ってくる。



「……どうする? この岩、退ける?」



 リンが杖を岩に向けて言った。ハリーは首を横に振った。いまは時間が惜しいし、もし失敗したら恐ろしい。リンの腕を疑っているわけではないが。



「先に進もう……ロン、君はそこで待っていて」


「……分かった。僕、少しでもここの岩を取り崩してみる。そしたら、そしたら君たちが ――― 帰りに、ここを通れるから」



 ロンは、懸命に落ち着いた声を出そうとしているようだった。力なく笑って、ハリーはリンを振り返った。



「……リン、君はここに残って、」


「馬鹿なこと言わないで。私も行くよ。スイとジャスティンを攻撃したやつの顔を見て、仕返ししてやらなきゃ気が済まないし」



 ハリーはリンを見た。ニッコリ、どことなく挑戦的に笑っている。数秒後、ハリーも微笑み返して、二人でトンネルを進んだ。



 トンネルは果てしなく続いているように思われた。長い長い距離を歩き、ついに、前方に固い壁が見えた。またヘビの彫刻が施してある。


 ハリーは再び≪開け≫と言った。壁が二つに裂ける……二人は目を見合わせ、その中へ入っていった。



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