蜘蛛が明かした真実(4)



 話をしていく内に、いろいろなことが分かってきた。


 アラゴグは物置でハグリッドに育てられ、そこから出たことはなく、誰も襲いはしなかった。

 それ故、トイレで死んだという犠牲者の女子生徒とは何の関係もない。

 「秘密の部屋」に住む怪物は、蜘蛛の仲間が何よりも恐れる太古の生物であって、その名前すら口にしない。


 リンが頭の中でざっと内容をまとめていると、アラゴグは話し終わったようだ。巣の中へと帰っていく。それなのに、他の蜘蛛は、三人に近寄ってくる。

 恐怖と絶望を覚えながら、ハリーはアラゴグの背中に声をかけた。



「じゃあ、あの、僕たち帰ります」


「 ――― 帰る? それはなるまい……」



 ゆっくりと顔だけ振り返ったアラゴグのセリフを聞いて、ハリーはリンを見た。視線が交わる ――― 二人とも真っ青だ。



「わしの命令で、娘や息子たちは、ハグリッドを決して傷つけはしない。しかし、わしらの前に進んでやってきた新鮮な肉を、おあずけにはできまい ――― さらば、ハグリッドの友人よ……」



 リンが素早くハリーとロンの腕を掴んだ。蜘蛛が脚を伸ばしてくるのを最後に、ハリーの視界は暗くなった……また何かに引っ張られていく……。




 ドサッと音を立て、ハリーは柔らかい地面に倒れ込んだ。視界いっぱいに星空が広がっている。起き上がると、どこにいるか分かった。森の入口だ。


 横を見ると、リンが座り込んで深々と溜め息をついている。彼女の向こうでは、ロンが大の字で寝転がっていた。目は飛び出していなかったが、口はまだ開きっぱなしで、声にならない叫びの形のままだった。

 これは当分反応しそうにないと判断したハリーは、先にリンに声をかけることにした。



「リン、大丈夫?」


「……うん、まあ……ロン? 無事?」



 ロンは答えなかった。呆然自失といった状態で、夜空を見上げている。心配そうなリンに、ハリーは「たぶん大丈夫」と言った。


 それから一分くらいして、ロンはようやく起き上がり、無言で木陰に行く。ハリーとリンが顔を見合わせていると、ゲーゲーと吐いている気配がした。

 さらに二、三分経ったあと、ロンは袖で口を拭きながら戻ってきた。



「クモの跡をつけろだって? 僕たち、生きてるのが不思議だよ!」



 ロンの口調は、いつもより弱々しかった。



「僕たちをあんなところへ追いやって、いったい何の意味があった?」


「ハグリッドが無実だってことが分かったよ」



 ポケットから「透明マント」を引っ張り出して、ハリーが言った。ロンは大きく鼻を鳴らした。アラゴグを物置の中で孵〔かえ〕すなんて、どこが「無実」なもんか、と言いたげだ。リンは無言で肩を竦めた。



「僕、絶対、ハグリッドを許さない」



 怒り出したロンを宥め、ハリーたちは城へと帰った。なにか分かったら互いに連絡すると、約束をして。



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