蜘蛛が明かした真実(3)



「こいつ、ずっとここにいたんだ……見てよ……野生化しちゃってる……」



 あんぐりと口を開けるロンに、車は、まるで大きな犬が飼い主に挨拶するように、ゆっくりとすり寄った。ロンは車に寄りかかり、優しく叩いた。



「お前はどこに行っちゃったのかって、ずっと気にしてたよ!」



 ハリーは、クモの通った跡はないかと地面を見回した。しかしクモの群れは、ギラギラする明かりから急いで逃げ去ってしまっていた。



「……ハリー、見つけた?」


「ダメだ、見失っちゃった ――― さあ、ロン、探しに行くよ」



 ロンは何も言わない。身じろぎもしなかった。ハリーとリンのすぐ後ろ、地面から二、三メートル上の一点に、目が釘付けになっている。


 ハリーは振り返る間もなかった(リンは間一髪飛び退いていたが)。カシャッカシャッと大きな音がしたかと思うと、何か長くて毛むくじゃらなものがハリーの体を鷲掴みにして持ち上げた。逆さまに宙吊りになったハリーは、もがいたが、どうしようもできなかった。


 視界の端にリンが見えた。同じように捕まっている。彼女は頭が上だったが、糸のようなものが身体に付着していた。どうやら、それで捕らえられたらしい。

 ロンの足も宙に浮くのが見えた次の瞬間、ハリーは暗い木立の中にサーッと運び込まれた。


 逆さ吊りのまま、ハリーは自分を捕らえている「何か」を見た。六本の恐ろしく長い、毛むくじゃらの脚が、地面を這い、その前の二本の脚で、ハリーを掴んで、さらにその上に、黒光りする一対の鋏があった。




 しばらくして、だだっ広い窪地に辿り着いた。薄明るいところだった。木を切り払っているため、星明かりに照らされているのだ。


 そこにあったのは、世にも恐ろしい光景だった。

 蜘蛛だ ――― 馬車馬のような、八つ目で八本脚の、黒々とした毛むくじゃらの、巨大な蜘蛛が数匹いた。獲物を見て興奮し、鋏をガチャつかせて近づいてくる。


 窪地の真ん中にある靄〔もや〕のようなドーム型の蜘蛛の巣のところで、ハリーは地面に落とされた。ロンもリンも隣に落ちてきた。

 ロンは気持ちを、器用にも、そっくりそのまま顔で表現していた ――― 声にならない悲鳴を上げ、口が大きく叫び声の形に開いていて、目は飛び出している。こんな状況でなければ笑える顔だ。


 ふと気がつくと、ハリーを捕まえていた蜘蛛が、何やら叫んでいた。誰かを呼んでいるようだった。ハリーの横で、リンが身構えた。



「アラゴグ! アラゴグ!」



 ゆらりと、蜘蛛の巣のドームの真ん中から、小型の象ほどもある蜘蛛が現れた。胴体と脚を覆う黒い毛に白いものが混じり、八つの目が白濁している ――― 盲〔めしい〕ているようだ。



「アラゴグ、人間です」


「ハグリッドでないのなら、殺せ」


「僕たち、ハグリッドの友達です!」



 ハリーが叫ぶと、巣の中に戻ろうとしていたアラゴグが立ち止まった。カシャッカシャッカシャッ、窪地の中の巨大蜘蛛の鋏が、一斉に鳴る。なんとも物騒な。いざとなったら消し炭にしてやろうかと、リンは眉を寄せた。



「ハグリッドは、一度も人を寄越すことなどなかった」


「彼はいま、ちょっと大変な状況になってて」


「大変?」



 リンのセリフに、アラゴグは気遣わしげに首を傾げた。ハリーとリンは目を見交わした。このまま上手く誘導しれば、聞き出せる。

 お互いに頷き合って、まずハリーが口を開いた。



→ (4)


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