蜘蛛が明かした真実(1)



 夏は、知らぬ間に城の周りに広がっていた。空も湖も、抜けるような明るいブルーに変わり、温室では、キャベツほどもある花々が咲き乱れていた。

 しかし、ハグリッドがファングを従えて校庭を大股で歩き回る姿が窓の外に見えないと、どこか気の抜けた風景に見えた。



 一連の事件に関係があると考えられ、ハグリッドは連行されてしまった。アズカバンに収容されているとのことだった。

 おまけに、ダンブルドアが理事から停職処分を食らっていた。マクゴナガルが代理で校長となってはいるが、生徒たちには、あまり慰めにならなかった。みんな暗い顔をしている。学校の中はめちゃくちゃだ。



 ただ、いいことも、小さいながらもあった。アーニーやベティが、ついにハリーが犯人ではないと認めたのだ(実は未だに疑っていた)。


 薬草学の授業中に、リンのすぐ前の机で、二人は彼に謝罪した。意外にもハリーはあっさりと受け入れた。隣のロンは、まだ許せないようだったが(これが当たり前の反応だとリンは思った)。

 ひとまず一件落着したところで、アーニーたちはリンたちの机へと戻ってきて、アビシニア無花果〔いちじく〕の剪定を始めた。


 しばらくして、突然ロンが痛そうな声を上げたので、リンは何事かと目を向けた。だが、様子を窺っていくうち、心配はいらないと分かった。

 どうやら、ハリーが剪定バサミをロンの手にぶつけてしまっただけのようだ……リンは納得して作業に戻ろうとしたが、ハリーがロンに何かを言っているのに気がついた。



「……でも、いま追いかけるわけにはいかないよ……」



 ロンがそう言うのが聞こえた。リンは二人の視線を辿った ――― クモだ。大きなクモが数匹、地面をガサゴソ這っている。

 そのクモ以外に「追いかける」ものがないのを確認して、リンは眉を顰〔ひそ〕めた。クモを追いかけるなんて、お世辞にも良い趣味とは言えない……彼らはいったい何がしたいんだろうか?


 その答えは、夕食のときに聞けた。

 温室にロンが忘れていった教科書を届けたついでに尋ねると、二人は顔を見合わせ、周りで誰も聞いていないことを確認したあと、そっと小声で教えてくれたのだ。


 ざっと要約すると、ハグリッドが連行されるときに言い残していったメッセージに従ってクモの跡を追いかけるのだとか。なかなか大変そうだ。他人事なので、リンはそれだけの感想を抱いた。



「……それで、今夜行くの?」


「うん……上手くいくか分からないけど……」



 ハリーが言うと、それまで静かだったロンが ――― 行きたくないらしい気持ちが、しっかり顔に出ている ――― リンに言った。



「ねえ、リン……気になるんだったら、君も来ない?」



→ (2)


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