9と3/4番線からの旅(2) 「どこだい、ネビル! ネビル……ああ、そこかい」 「ばあちゃん……」 少年が小さく呟く。歩いてくる老婦人のことを本気で恐れているのが窺えた。 老婦人は、キビキビと真っ直ぐこちらに歩いてくる。手には、なぜかヒキガエルがしっかりと握り締められていた。あまりにも強く握り締めているので、ヒキガエルが破裂してしまうのではないかとリンは思った。 「ほら、ネビル」 老婦人はヒキガエルを少年に渡す。彼がうっかり逃がしてしまわないように、彼の手の上に自分の手を重ね、しっかりと握り締めさせる。それからリンを見た。 「おや、ネビル、もうお友達ができたのかい」 「え? あー、えっと」 「そうかい、そうかい。そりゃあよかった」 少年は何やら口の中でモゴモゴ言っていたが、老婦人は無視した。リンに顔を向け、笑いかける。 「お嬢さん、こんな子ですが、どうぞ仲良くしてやってください」 彼女が深々とお辞儀をするので、リンも慌てて頭を下げた。 「いえ、こちらこそ、迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」 「いいえ、迷惑をかけるのは、きっとうちの孫ですわ――― ほら、お前も頭をお下げ!」 ガッと頭を鷲掴みにされて、少年はワタワタとお辞儀をした。 老婦人は、それから少年のトランクを魔法で列車に運び入れ、くれぐれもトレバー ――― どうやらヒキガエルの名前らしかった ――― を逃がさないようにと少年に何度も念を押し、もう一度リンに(今度は軽く)お辞儀をして、去っていった。 「……台風みたいな人だね」 リンが言うと、少年は怖々と周囲に視線をめぐらせ、老婦人がもう近くにいないか確かめたあと、小さく、しかし確かに頷いた。リンは笑った。 「私、リン・ヨシノっていうの。よろしく」 「ぼっ僕、ネビル・ロングボトム」 リンが手を差し出すと、少年は顔を真っ赤にして、どもりながら名乗り、おずおずと握手した。 → (3) |