はらはらと雪が降る光景を、リンはやけに空虚な表情で、ぼんやり窓越しに眺めていた。

 スイが、ジャスティンと「ほとんど首無しニック」と共に襲われた……その件で、リンはひどく落ち込んでいた。まさかスイまで襲われるなんて、考えていなかったのだ ――― スイは、普通の動物とは違うのだから。

 リンは、石になったスイのことを脳裏に思い浮かべた。

 小猿という“器”もろともスイの“魂”が硬直していた。「ほとんど首無しニック」のように黒く煤けるとまではいかなかったが、いつもは半透明ながらも色彩豊かな彼女の“魂”は、まるで鋼のように無機質な色に変わっていた。

 ――― マンドレイク回復薬を飲んで“器”が蘇生したとして、果たして“魂”は戻るのだろうか……? そんな恐ろしい疑問が浮かんできて、リンは身震いした。

 頭〔かぶり〕を振って、リンは部屋を出た。

 一人でいると、どんどん後ろ向きの考えをしてしまう。寮には誰もいないから、外に出よう……大広間なら、きっと誰かいるはずだ。なにせ今日はクリスマスなのだから。


 間接的に事件に巻き込まれたものの、予定を変更してクリスマスに帰宅しようという気は、起こらなかった。帰ったところで、母に慰めてもらえるわけでもない。

 実際、手紙で一部始終を知らせてみたが、返事はとても素っ気ないものだった。学校中を恐怖に陥れる『秘密の部屋』を以てしても、母の関心は引けないらしい……まあ、夏休みの状況を考えると、返事があっただけマシなのだろうが。

 ただ、今朝届けられたクリスマスカードの最後に「マンドレイクが成熟するまで待て」と添えられていた。あれが母なりの気遣いだといいなと、リンは思っている。

「メリークリスマス、リン!」

 突然左右から同時にかけられた二人ぶんの声に、リンは肩を跳ねさせた。反射的に勢いよく後ろに飛び退く。視界に二つの顔が入ってきて、リンは呆れたように溜め息をついた。

「……メリークリスマス、双子のウィーズリー。驚かさないで」

「驚かす? そんなつもり微塵もなかったぜ、なぁ、フレッド?」

「ああ。僕たち、リンを見かけて普通に挨拶をしようと思っただけさ」

「うん、知ってる。ありがとう」

 リンは柔らかく微笑んだ。俯いて歩いているリンを心配して、わざと悪戯っぽく挨拶をしてきた……それくらい、冷静になればだいたい察しがつく。

 リンが素直に礼を言うと、双子は一瞬、面食らったような顔をした。だが、すぐに互いに目配せをして、リンの手を片方ずつ取った。

「よければ、一緒に昼食を食べないかい?」

 ジョージの誘いに、今度はリンが面食らった。何度か瞬きをする。

「……他の兄弟と食べるんじゃないの?」

「リンも来ればいい」

「野郎ばっかりだから、花が増えるのはいいことだよ」

 ウインクをしたフレッドに、リンは笑った。



 特に何も考えないで双子からの誘いを受けてしまったが、果たして、ハッフルパフ生の自分がグリフィンドールのテーブルに着いていてもいいのだろうか?

 双子の間に座ってクリスマス・プディングを食べながら疑問に思ったが、意外にも周りの人たちは何も言わなかった。

 教員テーブルへ視線を向けてみると、スプラウトとマクゴナガルがこちらを見ていた。なんだか微笑ましそうな雰囲気だ。リンと目が合うと、二人揃って小さく手を振ってきた……仲がいいみたいだ。

 注意してくる気配はないので、リンはもう気にせず食事を進めることにした。

 チョコレートケーキを取ろうと手を伸ばすと、誰かの手と鉢合わせた。ハリー・ポッターだった。

 ハリーは驚いたようにリンを見つめて、ハッとして顔を逸らしたが、窺うように視線だけ向けてくる……なんだろう。不思議に思ったが、彼の目が一瞬リンの肩の上を見たので、リンは理解した。

「……私、君がスリザリンの継承者だなんて思ってないよ」

 不意にリンが言うと、ハリーはビックリして、まじまじとリンを見つめて「……本当に?」と聞いてくる。リンは頷いた。

「スイが、君はいい人だって好いていたもの……だから、信じる」

 ハリーは瞬きをした。その隣のロンなど、ポカンと口を開けてリンを見つめている。それには気づかず、リンは気を取り直してケーキへと手を伸ばした。

「……君ってさ、すごく頭いいんだろうけど……なんていうか……ちょっとだけ、変わってるよな」

 ロンの言葉に、リンは「そう?」と首を傾げた。

「確かに私は成績優秀と言われてるけど、頭が良いわけではないよ」

「………えーと、つまり……?」

 首を傾げて考え込むロンに笑って、リンは言った。

「分かりやすく言うと、テストの点がいいからと言って、それが必ずしもイコールで頭の良さに繋がるわけではないでしょう、ってこと。そして、逆もまた真なり」

 そう言ってケーキを頬張るリンを何秒か見つめ続けたあと、ロンは目から鱗といった風情で呟いた。

「かっこいい……ねえ、それ今度ハーマイオニーに言ってやってくれない?」

「………私、彼女は苦手」

 苦虫を噛み潰したような顔をするリンを見て、ハリーとロンは顔を見合わせ、一緒に吹き出した。

2-14. 紛れ込んでみたクリスマス
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