翌日、ハリー・ポッターはイライラしながら談話室の暖炉のそばに座っていた。昨日のことでジャスティン・フィンチ‐フレッチリーと話がしたいのに、薬草学の授業が休講となったために、そのチャンスを失ったのだ。

「そんなに気になるんだったら、ジャスティンを探しに行けば?」

 ハーマイオニーの提案で、ハリーは寮の外へと出た。とりあえず当てもなく廊下を歩いていたとき、ふと図書館をチェックしてみようと思いつき、早足で向かった。



 思った通り、図書館の奥では、ハッフルパフ生たちが固まっていた。ジャスティンがそのなかにいるか分からなくて、ハリーはとりあえず近づくことにした。

 進んで行く途中で、話が耳に入ってきた。ハリーは立ち止まって、本棚のところに隠れ、そっと耳をすませた。

「 ――― だからさ」

 太った男の子が、他の生徒に向かって何やら話している。

「僕、ジャスティンに言ったんだ。自分の部屋に隠れてろ、しばらくの間は目立たないようにしてるのが一番だって。あいつ、自分がマグル出身だって、うっかりポッターに漏らしちゃったんだよ。そんなこと、スリザリンの継承者がうろついてるときに言いふらすべきじゃないってのに。だからジャスティン、いつかはこうなるんじゃないかって思ってたさ」

「じゃあ、アーニー、あなた、絶対にポッターだって思ってるの?」

 金髪を三つ編みにした女の子が聞くと、アーニーは重々しく言った。

「ハンナ、昨日見ただろう? 彼はパーセルマウスだ。それが闇の魔法使いの印だってことくらい、みんなが知ってるよ……ヘビと話ができる魔法使いのなかに、まともな人がいたかい? スリザリン自身のことを、みんなが『蛇舌』って呼んでたくらいだ」

 ザワザワと重苦しい囁きが起こるなか、アーニーは続けた。

「壁に書かれていた言葉を覚えてるか? 『継承者の敵よ、気をつけよ』 ――― ポッターはフィルチと何かゴタゴタがあったんだ。そしたらどうだい? フィルチの猫が襲われた。クリービーは、ポッターにつきまとって写真を撮りまくって、ポッターに嫌がられてた。そしたら今度は、クリービーがやられてた」

 身振り手振りを交えて説明するアーニーに、他のハッフルパフ生は恐々と顔を見合わせる。なんとなく納得したような顔つきをしているように、ハリーには見えた。

 さらにアーニーが続けようとしたとき、誰かが溜め息混じりに本を閉じる音が響いた。みんながハッと息を呑む。

「……憶測で物を言うのはよくないと思う、アーニー」

 女の子の声だった。少し高めの、どこか落ち着いた気持ちになれる声 ――― 聞き覚えがあるが、思い出せない。誰なのか見ようと、ハリーは近くまで、彼らに悟られないようににじり寄った。

「ハリー・ポッターがスリザリンの継承者だなんて、確証がないでしょう?」

 その女の子の顔を見て、ハリーは思わず声を上げそうになったが、すんでのところで抑えた。口元を手で押さえ、ハリーはじっと見つめる ――― リン・ヨシノだ。テーブルに頬杖をついて、新しく選んだ本を開いている。

「だいたい、どうして彼が継承者だと思うの?」

「あら、リンは違うって思ってるわけ?」

 今度は、ミルクティーブラウン色のくせ毛の女の子が尋ねた。リンは「うん」と頷いてページをめくる。

 ハリーは胸の奥が暖かくなるのを感じた……ロンやハーマイオニー以外にも僕を信じてくれる人がいる……飛び上がりたいくらい嬉しかった。

「なんでそう思うんだ?」

 ハリーとは対照的に、アーニーは自説を否定されて不機嫌そうだった。リンは相変わらず冷静に本を読んでいる。またページをめくってから、やっと口を開いた。

「……まず、ミセス・ノリスが襲われた日だけど、現場にいるのを目撃されたなんて変だもの。もっと早く ――― みんながハロウィーン・パーティーを楽しんでる間に事を運んで、誰にも見つからないように去ったほうがずっと都合がいい……もし犯人だったらってことだけど。ハーマイオニー・グレンジャーも一緒だったなら、なおさらそうするはずだよ。彼女はとても賢いから、そんな疑われるような真似は絶対しない」

 リンは一旦息をつき、またもやページを捲った。喋りながらどうやって本を読めるのか、ハリーはとても不思議だった。

「昨日もそう。仮にジャスティンを狙ってるなら、周りに誰もいない場所でやったほうが有利じゃない? わざわざ公衆の面前で襲う必要がある?」

 沈黙のなか、みんな顔を見合わせた。ハンナが真っ先にリンに同意した。

「私も違うと思う。だって、アーニー、彼って『例のあの人』を消したのよ。そんなに悪人なはずないわ」

 アーニーは深々と溜め息をついて、さっきよりも声を落とした。ハリーは彼の言葉が聞き取れるよう、さらに近づいた。

「ポッターが『例のあの人』に襲われたとき、まだほんの赤ん坊だったのにどうやって生き残ったのか、誰も知らない……あれだけの呪いを受けて生き残れるのなんて、本当に強力な『闇の魔法使い』だけだ……つまり、『例のあの人』がポッターを殺したかったのは、闇の帝王がもう一人いて、競走になるのが嫌だったからなんだ」

 リンが口を開くより先に、ハリーの我慢の限界がきた。大きく咳払いし、本棚の影から姿を現した。


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